ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

まさかの「パンデミックパピー」

コロナ禍コロちゃんのデイジー

コロナ禍コロちゃんのデイジー。機嫌のよい子にすくすく成長中だが、パパはレストランのマネージャーなので、次の緩和で仕事が始まったら困ったことになるかもと心配されている

 もしかしたら人間の病気がなんとかなってきたからかもしれませんがメディアのコロナ関連ニュースもディテールが膾炙(かいしゃ)されるようになってきました。今週とりわけ考えさせられたのがガーディアン紙の「パンデミックパピー pandemic puppies」についての記事。  BBCでもそれをベースにした同内容のニュースをやっています。  パンデミックパピーとは意訳すると「コロナ禍コロちゃん」みたいなニュアンスでしょうか。ロックダウンの無聊(ぶりょう)を託(かこ)つために仔犬を飼う人たちが増えた話は前述した著書にも書きました。犬を買う心構え、犬と暮らす覚悟のない人たちのせいで悲劇が起こるのではないかと私はずっと懸念していましたが予想外の形で静かなトラブルが英国に起こり始めています。  イタリアやフランスではホリデーシーズンになると長期バカンスの〝アクセサリー〟として仔犬を買って連れ歩くバカ親やバカ娘がいまだに根絶されません。夏の終わりと同時に捨てられるリゾートドッグの問題に対処する法規制が長年求められています。わたしが心配していたのは、そんなロックダウン明けのコロナドッグの誕生でした。  あにはからんや異様な愛犬家の多い英国ではみんながコロちゃんを目の中に入れても痛くない勢いで可愛がった結果、緩和後に完成したのは過度に甘やかされたSpoiled Dog だったのです。  前回、ソーシャライジングする犬たちの微笑ましい風景を紹介しましたが コロナ禍コロちゃんは本来ならもっと早く経験すべき他犬との付き合いも知らず、ただただ飼い主の愛情を四六時中受けて育ちます。ところがロックダウン緩和によってパパやママが会社へ行くようになってしまった。「捨てられた」と思い込んで精神的に不安定になっているというのです。  設備の整ったドッグシッター施設は大賑わいだとニュースは伝えていましたが、それがどこにでもあるわけではありません。コロナ禍コロちゃん問題は存外根が深いのです。冒頭に書いた肥満問題にも通じるニューノーマル社会の歪みです。 ◆入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns【再封鎖15週目】4/16-23 <文・写真/入江敦彦>
入江敦彦(いりえあつひこ)●1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『イケズの構造』『怖いこわい京都』(ともに新潮文庫)、『英国のOFF』(新潮社)、『テ・鉄輪』(光文社文庫)、「京都人だけが」シリーズ、など京都、英国に関する著作が多数ある。近年は『ベストセラーなんかこわくない』『読む京都』(ともに本の雑誌社)など書評集も執筆。その他に『京都喰らい』(140B)、『京都でお買いもん』(新潮社)など。2020年9月『英国ロックダウン100日日記』(本の雑誌社)を上梓。
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