(C)2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute
4月2日より、イギリス映画
『僕が跳びはねる理由』が公開されている。
本作は、自閉症の作家である東田直樹が13歳の時に執筆し、世界30カ国以上で出版され、現在117万部を超える世界的ベストセラーとなったエッセイ「自閉症の僕が跳びはねる理由」をもとにしたドキュメンタリーだ。
作品評価は高く、米批評サイトRotten Tomatoesでは98%という驚異的な支持率を達成。サンダンス映画祭のワールド・シネマ・ドキュメンタリーコンペティション部門において観客賞を受賞する他、バンクーバー国際映画祭の長編インターナショナルドキュメンタリー部門では観客賞とインパクト大賞のダブル受賞も果たしている。
実際の本編を鑑賞したところ、原作で東田直樹が文章として伝えていたメッセージを映像作品として見事に昇華していたこと、そして自閉症者の偏見を覆す力に溢れていることに感嘆しきりだった。そして、こだわり抜かれた映像と音の魅力も大きく、映画館という空間で観る価値も存分にあった。さらなる作品の特徴を以下に記していこう。
原作のエッセイは、「自閉症の人はどうして○○なのだろう」というさまざまな疑問に対して、わかりやすく答えた内容だ。それぞれが、私たちが自閉症の人たちに抱いていたイメージを根本から覆すような、気づきに満ち溢れていた。
今回の映画では、その原作の映像化にあたって、いくつかの独特のアプローチをしている。まず、原作者である東田直樹はいっさい登場しない。しかし、彼の投影とも言える日本人の少年が、さまざまな風景を旅をする姿が、映画全体を導くかのように挿入されている。彼を演じているのは、日本とアメリカのミックスである、実際に自閉症の少年だ。
(C)2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute
ジェリー・ロスウェル監督によると、「この少年は、直樹君の自閉症への洞察が標準となる世界、つまりより多様性を受容する世界で成長するかもしれない、ある種の次世代を代表する象徴として、映画の中で登場させた」のだという。加えて、東田直樹が原作のエッセイを書いた時の年齢が13歳と若かったこと、原作の巻末に収録されている「側にいるから」という短編小説もこのアイデアのもとになっているのだという。
その短編小説の主人公は、ジェリー・ロスウェル監督にとっては「まるで体が存在していないかのように世界を旅している」と思えたそうだ。そして、「エッセイでは身体に重くのしかかるような感覚について書かれているからこそ、この『無重力さ』が直樹君の考える天国なのだと私には思えた」からこそ、「少年が妖精のように駆け回る映像」を考えたという。
このおかげもあって、本作は「自由」な印象を持てるようになっている。自閉症の症状は、私たちにとって(勝手に)「不自由さ」も感じてしまうものでもあるが、彼らにとっては世界はそれだけではない、喜びや自由さに溢れたものでもあると、まず映像として提示してくれるような感動があったのだ。