統計とIHME予測を見てきてわかった、本邦統計の「異常」。そして浮上した日本発変異株発生の可能性

ワクチンの接種状況比較からわかる日本の遅れ

 最後にワクチンの接種状況を比較しましょう。
イスラエル、英国、合衆国、EU、シンガポール、中国、インドネシア、韓国、マレーシア、日本、フィリピンと全世界における百人あたりワクチン接種回数の累計(%,線形)2020/12/13-2021/03/14

イスラエル、英国、合衆国、EU、シンガポール、中国、インドネシア、韓国、マレーシア、日本、フィリピンと全世界における百人あたりワクチン接種回数の累計(%,線形)2020/12/13-2021/03/14/OWID

 ワクチン接種は、とくにパンデミックが猛威を振るっている米欧と中東で急速に進められています。結果イスラエルは、3/14現在で接種率108%となっています*。 〈*COVID-19ワクチンは、Flu Shot(インフルエンザワクチン)と同じでブースター込みの2回接種が基本である。また第1世代ワクチンの有効性が激減するとされるB.1.351などのE484K変異を含む変異株に対する場合は、ブースター2回の3回接種が検討されている。従って、接種回数は人口比100%を超える。3月に入り緊急使用許可が出たジョンソン・アンド・ジョンソン(J&J)のワクチンは、一回接種であり、医療資源への大幅な負荷減少が期待されている〉  合衆国では、3/13実績で1日320万接種(人口の約1%)という驚異的なマス・ヴァクチネーションが実施されており、3/14現在での2回接種完了は、人口の11.3%、一回接種済みは21%に登っており、既感染回復者の免疫保有人口12%と合わせて40%余りの人が何らかの免疫を持つ状況となっています。これは集団免疫の完成までは半ばですが、集団免疫の効果が統計に現れるであろうとされています。  謎々効果によって守られている東部アジア・大洋州では、中国やシンガポールなどの例外を除きワクチン接種では大きく立ち後れていますが、パンデミックによる感染状況が米欧に比して遙かに小規模のため医療従事者などの高リスク集団を除けば急ぐ必要は無いという事情はあります。  その中で東部アジア・大洋州で状態の悪いマレーシア、インドネシア、韓国、日本、フィリピンではワクチン接種が進められていますが、本邦とフィリピンの進捗は極めて低く、雀の涙です。  残念ながら、イスラエル、英国、合衆国などの一部例外を除き、B.1.1.7(英国変異株)によるパンデミックにワクチンは間に合いません。  2021/03/14時点での日韓台の現状はこれまでとなります。次回は、本邦統計の異常についての解説とし、その次に台湾、その次にIHMEによる最新予測の解説を予定しています。

日本発E484K変異株の発見

 本稿執筆中にたいへんに重大な発見が国立遺伝研究所教授、川上浩一博士から発表されましたので、速報性重視で本稿の最後に記します。  インターパーク倉持呼吸器内科院長、倉持仁医学博士国立遺伝学研究所教授、川上浩一理学博士の共同研究で、RT-PCR法によるCOVID-19臨床検体分析が行われてきています。この研究は、特別な財政支援無しの持ち出しで行われています。川上博士は、本研究に対してコロナ対策予算を1円も受け取っていないとのことで、100万円規模の持ち出しとのことです。  以下に、該当するTweetをご紹介します。関連Tweetで、プライマーの配列も公表されており、研究者必見となっています。(図版はすべてTwitterのリンク先でご覧ください) “ 変異株の発表です。今までにない変異かもしれません。遺伝研川上先生、結果をツイートお願いいたします。”(インターパーク倉持呼吸器内科院長・倉持仁医師のツイートより) “ 倉持先生とは昨年来、共同研究の体制を構築してきました。新しい結果が出たので、これまで応援して下さった方たちにシェアします。論文形式で記載しますね。[方法]検体からRNAを抽出し、S蛋白質遺伝子特異的プライマーによるRT-PCRを行い、得られた約500bpのDNAの塩基配列を決定した。↓”(国立遺伝学研究所教授、川上浩一理学博士のツイート) “ [結果]6検体を解析した。1月に採取された5検体のS遺伝子は従来型であったが、最近採取された1検体はE484K変異をもっていた。南アフリカ株はE484K以外にN501Y、K417N変異をもつことが知られているが、この検体由来のS遺伝子はN501Y、K417N変異をもっていなかった(下図参照)。↓”(同上川上博士のツイート) “ 下の図は、私たちがDNAの塩基配列を解析する際によく使う波形の図です。矢印が示している、1塩基の変異(GからAへの変異)が、遺伝暗号を変化させ、アミノ酸のE(グルタミン酸)からK(リジン)への変異を引き起こします。↓”(同上川上博士のツイート) “ [考察]今回インターパーク倉持呼吸器内科で見つかったE484K変異株は、英国株(B.1.1.7)、南アフリカ株(B.1.351)、ブラジル株(P.1)とは異なる。慶應大の報告、あるいは厚労省の報告と同一か?は、全ゲノム解析により明らかになるであろう(進行中)。↓”(同上川上博士のツイート) “ この変異株が、どのくらい拡がっているか?も、さらなる追跡、解析が必要。日本国内で誕生したものか?については今後の解析で明らかにできると考えます。[謝辞]井ノ上先生、光永先生、白木博士(遺伝研)ここまで//質問がありましたら、可能な範囲で答えます。”(同上川上博士のツイート  川上・倉持共同研究にて、E484K変異を持つSARS-CoV-2変異株が発見されました。これは、データベースと照合する限り、本邦独自株の可能性があるとのことです。現在全ゲノム解析中とのことです。 “ インターパーク倉持呼吸器内科で採取された、この検体以外の新たな4検体の結果は明日出る予定ですし、変異株の全ゲノム配列解析の結果は今週中には出ますので、さらに確かなことが言えると考えています。@UCiS7MEgWj6L7cV”(川上博士のツイート  ウィルスは、人に感染することで常に変異を生じており、ワクチン・抗体抵抗性があり生存性の高いE484K変異を持つ株が選択的に発生することはやむを得ないのですが、同一地域で採取された5検体中3検体がこの変異株ということに注目せねばなりません。川上博士によると1月の検体は5検体中5検体が在来株だったとのことです。  筆者は、有志が厚労省発表資料を基に作成、公開している“国内変異株患者の確認状況”によってB.1.1.7(英国株)は、既に国内でエピデミックを発生していること、B.1.351(南ア株・E484Kあり)は、市中感染が始まっているであろう事、P.1(ブラジル株・E484Kあり)も国内侵入が疑われることは把握してきましたが、情報の透明性が極めて低く、深く憂慮してきました。  そのような中で、n=5ではありますが、60%の確率で臨床検体中から本邦独自と疑われるE484Kを含む変異株が発見されたことは、重大な懸念材料となります。 “ 5検体中3検体がE484K変異でした。かなりの高頻度です。E484Kは免疫逃避型変異と呼ばれ現ワクチンの効果を減じる可能性があります。感染性、重症化等についてはよくわかっていません。変異は静かに拡がっています。検査、モニタリングで陽性者を保護し感染拡大を防がねばなりません。@UCiS7MEgWj6L7cV”(川上博士のツイート  このような重要研究が個々人の努力のみに依存し、重要情報が、Twitterによる私的公表に留まる様では、とても闘えないなという深い憂慮を抱きます。 ◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ43:第四波エピデミック(4) <文/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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