次に、筆者がエピデミックの傾向を読み取るために用いている一週間変化率と二週間変化率*を見ます。今回は、日韓の新規感染者数についてご紹介します。
〈*当日の一週間移動平均と前週同日7日間移動平均の間の変化率および当日の二週間移動平均と二週間前同日14日間移動平均の間の変化率。+で増加、0で変化無し、―で減少を意味する。筆者は、基本的に二週間変化率から倍加時間または半減時間(半減期)を算出しており、一週間変化率から傾向を読み取っている〉
日本、韓国における日毎新規感染者数の一週間変化率推移(%,線形)2020/09/01-2021/03/14/+で増加・0%で変化無し・―で減少。台湾は、新規感染者数が一桁で、僅かな変動で変化率が大きく変化するので可読性を損なうため入れていない/ 日本、韓国における日毎新規感染者数の二週間変化率推移(%,線形)2020/09/01-2021/03/14/+で増加・0%で変化無し・―で減少。台湾は、新規感染者数が一桁で、僅かな変動で変化率が大きく変化するので可読性を損なうため入れていない/OWID
日韓共に一週間・二週間変化率は増加しており、一週間変化率は3/5で正の数=単純増加となっています。一週間変化率は、筆者がエピデミック本格化の目安とする+25%=倍化時間の一か月程度に近づいています。
二週間変化率も日韓共に今週後半から来週にかけて正の値になる見込みで、一週間・二週間変化率が共に正の値かつ、増加(微分係数が正の値)という
エピデミックの最盛期は来週になるであろうと筆者は予測しています。
一・二週間変化率の推移から、本邦における非季節性第四波エピデミックは、2/13頃に立ち上がったものと考えられます。
韓国においては、IM宣教会、ソルラル(旧正月)による二度のSpikeによって分かりにくいのですが、1月中旬頃に非季節性第四波エピデミックが始まり、二度のSpikeによる封じ込め強化によって抑えられていた結果、二ヶ月間の下げ止まりをみせていた可能性を筆者は疑っています。
B.1.1.7による感染拡大状況については過去のPCR検査向け検体のゲノム解析(全遺伝子情報解析)結果がまとまることではっきりとします。
次に日本、韓国、台湾の検査率と検査陽性率を見ましょう。
日本、韓国、台湾における千人あたりの検査数(‰,線形,7日移動平均)2020/09/01〜2021/03/12/日本における9/29〜10/5の7日間は、9/29に検査数の統計漏れが一括計上された影響で過大評価の異常値となっている。/ 日本、韓国、台湾における検査陽性率の推移(%,線形,7日移動平均)2020/09/01〜2021/03/11/日本における9/29〜10/5の7日間は、9/29に検査数の統計漏れが一括計上された影響で過小評価の異常値となっている。/OWID
検査率は、日韓共に10月はじめ時点では韓国が本邦より3割程度高率、台湾は日韓の1/15〜1/10という低率でした。この時点で新規感染者率は、韓国は本邦の4/10、台湾は本邦の1/100でした。
この後台湾を除く本邦と韓国では、第三波エピデミックが発生したのですが、3国共にクラスタ戦略と水際防衛戦略を採っており、感染者数が増加するのに対応して検査を増やして行きました。韓国では感染者数の増加に応じて検査数が即応して増加しており、特に12/14のソウル首都圏域における大規模一般PCR検査の開始、ソウル首都圏域におけるクラスタ戦略の部分的放棄と封じ込め戦略への移行によって韓国は、本邦を50〜100%上回る検査率となっています。これにより一時3.5%まで上昇した検査陽性率を韓国の上限目標値である1%まで落としています。しかし第四波エピデミックの立ち上がりによって2月下旬から韓国では検査陽性率が1%を超えています。韓国は防疫に統計を反映させるという当たり前のことをしていますのでK防疫体制の緩和見送りなど、順次対応が行われています。第三波では、対応の僅かな遅れで約1300人死亡という大きな犠牲を出しましたが、
韓国においては、クラスタ戦略、水際防衛戦略、首都圏における封じ込め戦略全てが正常に機能し続けています。この点が本邦との決定的な違いで、K防疫が世界から賞賛される理由です。
台湾では、昨年3月来、253日間発見されなかった国内発生新規陽性者が12月以降、
散発的に発見されており、12月から2月にかけてPCR検査を増やし、国内感染者の発見を進めました。結果、2月下旬以降、国内新規感染者は殆ど発見されなくなっています。
検査陽性率の推移を見ると分かるのですが、台湾では12月以降、0.5%以下になるように検査数を増やしており、国内新規陽性者の発生が制圧されたあとも1人の新規陽性者の発見に500〜1000人の検査を行うという、中国を代表に、合衆国ニューヨーク州やニュージーランド、シンガポール、豪州など、エピデミックに苦しみながら制圧に成功した国や地域に共通する、1人の新規陽性者の発見に1000人規模の検査を行うという掃討戦を行っています。これに成功するとその域内はバブル=安全地帯となり、社会・経済活動が平時に相当程度近づくこととなります。代表例が台湾、中国、豪州、ニュージーランド、シンガポールです。
台湾を見れば分かりますが、ウイルスの掃討後は、大量検査の必要は無く、検疫を厳しく行う事で、ウィルスの侵入を阻止でき、侵入しても早期発見、早期制圧ができます。豪州は、秋の波(8月エピデミック)でかなり苦労をしましたが、制圧に成功し、早期発見・早期制圧態勢を構築し、その上で国内経済再建の一環として一部の航空機国内線の半額キャンペーンが4月1日から始まります*。本邦のGo Toに相当するものは、国内でのエピデミック制圧、掃討後に行うもので、豪州はそこに漸く達したということです。筆者は、豪州へ心からの賞賛を贈ります。
〈*
Australians to be offered half-price flights to boost local tourism 2021/03/11 BBC、
COVID-19 | 連邦、航空料金半額で国民に国内旅行奨励 2021/03/11 日豪プレス〉
さて本邦は、クラスタ戦略が成功しているが故に検査数を絞ることができている
韓国に比して半分から1/3の検査密度であり、たいへんに高い検査陽性率となっているため、大量の感染者を見逃していることは自明です。本邦の場合、
新規感染者数の推移が特に新規感染者数の増加時におかしなグラフを描くことが3月の第一波以降繰り返されており、要は感染者数の増加に検査数の増加が全く追いついていないと考えられます。このことは次回論じますが、実際に
IHME(保健指標評価研究所)やICL(インペリアルカレッジ・ロンドン)他による真の感染者数の評価では、本邦は特に感染拡大期に検査不足による大量の感染者見逃しを生じているという厳しい評価が成されています。とくにICLは、極めて厳しい評価をしています。
本邦固有の国策による統計の著しい歪みは、統計を継続して観察すれば高校生でも自分で気がつくほどに自明ですし、海外研究者にはもはやとっくの昔に見抜かれています。本件は、次回詳しく論じる予定で執筆中です。
ここで東部アジア・大洋州における優秀国の日毎新規感染者数の推移を図示します。
東部アジア・大洋州諸国で直近の日毎新規感染者が2ppm以下の国における百万人あたり日毎新規感染者数の推移(ppm,線形,7日移動平均)2020/09/01-2021/03/14/OWID
図示した国は、全て東部アジア・大洋州の謎々効果影響下にある国ですが、1年前に初動に成功した国、初動に失敗した後に適切な対応をして制圧後、ウイルスの掃討に成功した国々です。特に百万人あたり感染者数1ppm未満の国では、国内での経済、社会活動はたいへんに活発です。9月からの第一波エピデミックを1月に制圧したばかりのミャンマーでも制圧直後の2/1軍事クーデター以後、市民による抵抗・抗議活動がマスク着用の上で全国的に激しく行われています*が、六週間経過した現在でも統計に目立つ影響が現れていません。
〈*
Myanmar military extends martial law after bloodiest day since coup 2021/03/15 BBC〉