――結局、「生きづらさ」とは、社会や人と繋がれない苦しみに直結していると言えますね。だからこそ、特定のパートナーを得ることで承認されようとするのでしょうか。
黒川:そういうところだと思います。人間は他者との関わり合いなしには生きられません。極度の孤独は人の精神を蝕みます。
人間関係がうまくいかず、ソーシャルサポートが受けられない結果、
二次障害としてうつを罹患するケースも多いです。たとえば、社交不安症や回避性パーソナリティ障害でうつ病を併発しているケースが多いのはこのためです。
ーーそこには、愛着形成の問題も関係しているように思います。
黒川:確かに大きなポイントになります。精神疾患にしろ、発達障害にしろ良質なパートナーを得るにはある程度健全な愛着スタイルが形成されている必要があります。ボウルビィが提唱した
愛着理論に
「心の安全基地」という概念があります。
平たくいえば「心の拠り所」ですが、これがあることで
感情が安定し、
人の好意を素直に受け取ったり正しく自己表現ができるようになる。
「パートナーを得て一件落着」というオチにカタルシスを感じられないのは、
人と繋がることに対してネガティブな思いを抱えている可能性があります。
世の中の7割ほどの人々においてが、幼少期に身につけた愛着スタイルが生涯続くと言われていますが、残りの3割は良質な人間関係や精神療法によって変容していきます。
酷似しているゆえに誤診されがちな、愛着障害と発達障害
ーー発達障害のグレーゾーンにも、愛着不全が関わっているケースも多いと言われています。
黒川:遺伝的問題がなくても、
家庭環境が極端に悪く愛着に著しいダメージを受けると自閉症的な言動をするようになります。
発達障害と酷似しているので誤診されがちですが、実際にはマルトリートメント(虐待)に由来するものも多く含まれていると思います。
発達障害とは違って、本来なら他者に共感できるのにそこだけが発達不全だったりする。これらは、
中長期的なセラピーによって変わる場合も少なくありません。
子供のADHDも誤診が非常に多い。家庭不和の子供は多動だったり集中力がなかったりしますが、
家庭環境がよくなるにつれ改善されていきます。
――今後も生きづらさの克服についてあらゆる形で共有されていくと思いますが、当事者が他者と比べてストレスを溜めないための方法はありますか?
黒川:あくまで一つの事例として受け止め、
「真に受けないこと」でしょう。
繰り返しになりますが、パートナーの有無は副次的なものであり、
メンタルヘルスの必須条件にはなりえません。生きづらさに伴う不調が人それぞれである以上、
克服の過程で何を獲得するかも千差万別であることを知っておいてください。
【黒川隆徳氏】
臨床心理学博士、米カリフォルニア州認定の臨床心理学者。アメリカ心理学会正会員。California School of Professional Psychology Los Angeles博士課程修了。California State University at Long Beach 心理学部卒。
60年の歴史ある精神力動的精神療法の名所「Airport Marina Counseling Service」(ロサンゼルス)にて史上最年少、および史上初の非アメリカ人クリニカル・スーパーバイザーに就任。現在は「みゆきクリニック」(東京都品川区)、慶應大学湘南藤沢キャンパスにてカウンセラーを勤める。カップルセラピーも得意とし、多くのカップルの結婚関係、恋愛関係を効果的に改善。専門:精神力動的精神療法、パーソナリティ障害、PTSD、カップルセラピー、テレセラピー、多文化心理学、復職支援、育児ノイローゼ、家族関係。
くろかわ心理サービス
<取材・文/安宿緑>
ライター、編集、翻訳者。米国心理学修士、韓国心理学会正会員。近著に「
韓国の若者」(中央公論新社)。
個人ブログ