「女性のほうがパートナーをより獲得しやすい」は本当か
ーー発達障害やパーソナリティ障害の場合はいかがでしょうか。
黒川:発達障害とパーソナリティ障害は分けて考える必要があります。
まず、自閉症スペクトラムなどの発達障害ですが、遺伝的な部分は変わりませんが、
ソーシャルスキルなどを身につけることでパートナーを得たり、既存のパートナーとの関係性が改善したり生きやすくなることは十分可能です。
パーソナリティ障害の場合は逆に、
理解ある協力者やパートナーの有無が非常に大きく関わってきます。
――そこで、「同じ生きづらさを抱えていても女性はモテるが、性別が逆だと難しい」という、性差を指摘する声もあります。このような通説については、どのようにお考えでしょうか?
実際には恋愛なしで精神疾患を克服するパターンのほうが多い
黒川:確かに女性のほうが男性と比べて同じ精神疾患でも社会的サポートを得やすいという諸説はありますね。ただ、これは実際のところ様々な要素が関与している非常に複雑なお話です。
たとえばこのコロナ渦で、日本と韓国で女性の自殺者が急増しているというデータがあります。社会経済的に女性は不利なことが多いですし、パートナーがいても、ジェンダーバイアスや配偶者からのモラルハラスメント、DVなどで心身は蝕まれていきますし、専業主婦の方がやむなく離婚して困窮していくケースは枚挙に暇がありません。
先ほどお話に出てきた「理解のある彼くん(または彼女)」問題も、
実際は人々が思っているほど多くはないのではないかと思います。
むしろ例外的な事例であるからこそ多くの人が興味を持ち書籍化していくわけで、実話でハッピーエンディングのラブストーリーは多くの人に歓迎されます。
しかし実のところ、こうした
ラブストーリーなしで精神疾患から回復していった人たちのほうが多数派なのではないかと思います。
これはメディアの影響であり、たとえば、飛行機事故で死亡する確率は自動車事故で死亡する確率とは比較にならないほど低いのに、自動車には普通に乗れるけれど飛行機は事故が怖くて乗れない、という人が相当数おられるのと同じことです。
飛行機事故は比較的珍しいことで公益性があるので大々的に何度も放送されます。
こうしたことから、たとえ女性のほうが男性よりも社会的サポートを得やすいという一面があっても、「同じような精神疾患において女性の方が男性よりも生きやすい」という説については私は懐疑的です。