ーー“孤独な戦い”をしている当事者たちからすると、パートナーを得たから克服したかのように見えてしまい、違和感をおぼえるということですね。そもそも、一般的にメンタルが不調のときに誰かと恋愛関係になることは、難しいのではないでしょうか?
黒川:精神障害があるからといって、誰かと繋がれないわけではありません。
完治していなくても、回復の過程で良い出会いがあるケースは少なくなりませんし、その
新しい良い関係が回復を促進することも良くあります。
とはいっても、こうしたケースは
因果関係が逆であり、パートナーシップが精神疾患を治したというよりも、
その人が誰かと親密になれるまでに精神疾患が改善していた、ということだと思います。
一方、誰かと本当に親密になれるほどに回復していない状態で、たまたま調子が良いときに誰かと出会って恋に落ちるというケースもあります。ちょっとした躁状態であったり。恋愛依存の傾向のある方に多いかもしれません。
こうしたケースは短期的には良くても中期的、中期的にはうまくいかない場合が多いです。
もともとカップルの場合は、克服とともに関係性が変わる
――片方が回復するにつれて別れるパターンもありますね。
黒川:先述の後者のケースです。精神疾患はその人の本来のメンタリティではないので、回復するにつれて関係性が変わる場合が多いです。
慢性的な精神疾患においては、もともとパートナーがいる場合、その回復と成長の過程において、大きく分けると、
Grow apart(成長による離別)とGrow Together(ともに成長する)のどちらかが起きてきます。
ちなみに、ベストセラーになった体験漫画「ツレがうつになりまして。」や、映画「ぐるりのこと。」でも典型的なGrow Togetherが扱われていますね。
たとえば共依存関係でも、片方が本格的な精神療法を受ける中で成長し、自立していくと、それまで病気のことで相手に依存していた人が次第に依存しなくなっていきますし、そうすると、相手を支えるという役割に依存していた側の人は、その役割に変化がでてくるので、その人自身相当な
再適応を迫られることになります。
この役割の変容を支える側がうまく受け入れられないと、このパートナーシップは遅かれ早かれ終わりが来ます。
弱っている人を助けるのが好きな、ある種の救世主願望を持っているパートナーの場合は相手の回復を無意識下で歓迎しません。そうすると、二人の間に不和が起きますし、それで別れる場合もあれば、
お互いに見捨てられたくないという力動関係が生じ、現状維持をしてしまうこともあります。
――その関係が「恋愛ではなく、友人ではダメなのか」という声もあります。
黒川:関係性にかかわらず、
重要なのは親密度です。大親友なら良いが、浅い関係だと治療効果が期待できない。当たり障りのない交友関係しか持てない人でも、恋愛関係ならばロマンスや肉体関係もあって表面上はすぐに親密さを得られます。だからこそ、問題が生じるのですが。