WAY OUT(出口)と書かれたエスカレータにわたしたちは乗り込みました。けれどロンドン地下鉄のそれは駅によって驚くほど長い。踊り場から折り返しでさらに伸びるのもザラ
お話戻ってロックダウン緩和の最終段階は6月21日。人が集まる劇場や映画館などのビジネスも幕が上がり、誰かと会ったり食事したりも自由にできるようになる。但しマスク着用がデフォルトだろうし、ソーシャルディスタンスや換気の工夫も求められるはず。公共交通機関でもそれは同じでしょう。
今回のプラニングが昨年と最も異なる点は、それぞれの項目について科学的な根拠を添えていることです。専門家のレポートをベースに執拗に「なぜならば」という理由を述べている。これは政府の責任逃れではなく、ある意味、謙虚になった証拠なのだと思いたいところです。プロフェッショナルの進言を七週間無視し続けた挙句のロックダウンなのですから当たり前といえば当たり前なんですが。
レポートの中には対策案を練り上げるにあたって重要な役目をはたしている
ロンドンのインペリアル・カレッジのモデルケース提示が含まれていました。規制が急速に緩和されると、この夏にはまた死亡者が急増するというかなり恐ろしいものです。それによればこれから一年、2022年の半ばまでにさらに8万人が死亡するかもれないとか。
すでに12万人が死んでいますから合計すると本当にトンデモない数字。けれど今回発表されたような長期的な緩和策に従えば3万人程度に抑えられるはずだとか。3万人は充分多い気がしますが、インフルエンザ大流行した年の死者がそれくらいだと説明されれば、ああ、なるほどねと納得できます。
しかし以上の内容は前述したようにワクチン接種の徹底が大前提。2月中にも2千万人を越しそうな第一回目のワクチン接種は、このままの勢いならば9月末までには全国民が終えている計算なのですが、さて。ジョンソン・アンド・ジョンソンの製品もじき加わりますからワクチン不足はなさそうですが。
不安材料は前回に書いたようにアイデンティティの違う移民のみなさんやお年寄りなどワクチンに拒否感がある人たちの存在。あの手この手で子供をあやすような推進キャンペーン実施中ですが、ユニークなところでは24日に女王陛下のズーム会議での発言がありました(アップロードは25日)。
80万人のフォロワーがいる
英国王室公式ユーチューブチャンネルでいまでも視聴可能です。そのなかで彼女は自らのワクチン体験を語っていました。「痛くもなんともなかったわ」「嫌がる人達の気持ちは分かるわよ、けどいまは自分のためではなく周りのみんなのために注射してちょうだい!」とスピーチ。3万8000ビューありました。
演説ではなく諭すような語感でもなく、まるで家族と話すような調子だったのが印象的でした。きっとあんな感じでチャールズ皇太子やウィリアムとハリー兄弟とも会話してるんだろうな。
しかし、ここにきて急激にアンチワクチンが欧州では増加しているようです。BBCのニュースでもキャスターがオランダに建造された接種会場からとまどったように中継していました。人けのない真新しい巨大施設というのはなかなかホラー映画な風景です。まばら、ではなく真剣に無人でしたから。
迷信的な忌避感や生理的嫌悪によるそれではなく医療関係者までもが明瞭に説明できない心理的抵抗感からワクチンを拒否しているケースが散見されているんですって。陰謀論とまではゆかずとも医者が噂や風聞を根拠に駄々こねるってなんじゃそりゃ。「打たないってわけじゃない。よりベターなものを待ってるんだ」……らしいのですが。
あくまで印象論ですがアメリカと並んで、かなりぎりぎりのところまで追いつめられたせいで英国では野火のごとく接種が広がっているのかもしれませんね。あきらかにパブリックプレッシャーが働いている。普段は同調圧力を厭がって〝勝手に生きてる〟英国人ですが、それゆえに一致団結するときはする国民性でもあります。緊迫感が伝わってきます。
現在計画が進んでいる「ワクチンパスポート」なんかも本来なら歓迎されないアイデアなんですよ。しかしことあるごとに検査をして陰性証明を提示しなければならないスタイルは様々な歪みや齟齬が社会にもたらせます。いまはまだ全体の動きがゆっくりなのでなんとかなっていますが、このままでは効率の悪いことこのうえない。遠くで嚏(くしゃみ)する音を聞いただけでビクつかなきゃならないなんてゴメンですもん。
接種を二度受けた人に自動的に発行されるカードの携帯は、これからの英国にはなくてはならないものになるでしょう。とりわけスポーツの試合やコンサートなど大勢の集客が見込まれるイベントでは提示が必須になるはずです。コロナは症状がほとんど出ない感染者でも重篤な患者と同じだけのウィルスを保有する事実がわかっているのでなおさら。