ロンドン再封鎖5週目。長い停滞が動き始めた<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

武者小路千家からの「そこらへんにあるもの」

長旅の苦労が偲ばれる箱

満身創痍でやってきた“そこらへんにあるもん”の箱。どんな長旅をしてきたのやら苦労が偲ばれます。けれど、マルコ、お前は着いたんだ。ありがたいことです。佳い年になれ!

 さて、前回の日記で「郵便によるトラブルの発生」の話を〝匂わせ〟ましたが、これも消耗による困難でありました。それが今週、2月9日にどちらもなんとか解決しました。  というところで「まあ、まあ、なんとかなって宜しゅうございました。まさに終わりよければ凡てよしですね」と送って下さった方と寿ぎあったのですが、その方から「この顛末は面白いから書かはったらどうですか?」と持ち掛けられました。確かにこれもコロナ禍における障礙(しょうがい)であったことに疑いはありません。ならば相手方の承諾(というかお勧め)もあったところで少しばかりお話ししたくぞんじます。  相手方、とは茶道武者小路千家家元後嗣、千宗屋くん。ほんまは「くん」付けんなんかしたらあかん、エライエライ先生なんですが長年の付き合いでそう呼ばせていただいてます。トラブったんは、その千くんが送ってくださったお年賀小包でした。  昨年のクリスマスは、すでにかなりの行動が制限されていましたが、それでもなんとか例年行事である英国ならではのずっしり重いクリスマスケーキを友人たちに送ることができました。インスタ経由ではありましたが千くんとも愉しみを共有できたので、ちょっと(かなり)緊張しつつも出荷しました。  有り難いことにクリスマス前に到着したケーキを喜んで下さった千くんは素晴らしいしつらえで一服点ててくださり、お抹茶によく合いましたとの言葉も戴き、もうそれだけで充分に過ぎるご返答だったのですが、かてて加えて「お礼というては何ですが〝そこらへんにあるもん〟詰めて送らせていただきました」というメッセージが来ました。  それが冬至。まさか、そのときはこんなことになるとは思わず官休庵さんの〝そこらへんにあるもん〟を想像して身悶えておりました。千くんにはこれまでの体験から普通郵便がいいですよーとお報せはしておいたのですが、さすがにあちらの事務所の方は仕事が早く小包はヤマト運輸の国際郵便にて出発したあとだったのです。

届かないイギリス郵便・宅配事情

 新年になっても荷は届かず、しかし小包が1ヶ月かかることはすでに珍しくなかったので、こちらとしては出来ることもなくヤキモキしつつもおとなしく待っておりました。そして1月22日、千くんから事務所からの報告を張り付けたメッセージがありました。そこにはうちへ何度配達しても不在続きだから、わたしから連絡をとってほしい旨が書かれており、UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)カスタマーセンターの電話番号が記されていました。  こちらにもヤマトの配送車は走っていますが、どうやら日本からの小荷物はUPSに託されるようです。そこでまずトラッキングナンバーを辿ってみるとUPSのログには1月11日の夜11時に配達を試みましたという内容がありました。「何度も」ではなく「一度切り」それも深夜。なにより不在票が残されていなかった。はっきりいってあり得ない。  UPSがヤマトに申告したのは真っ赤な嘘八百です。ただ腹を立てていても仕方がない。カスタマーセンターに電話しましたよ。そこにあったのは自動音声による無間地獄でした。たらいまわしの数は12回。次の音声に切り替わるまでに5分。1時間浪費した挙句わたしが到達したのはかけたときに最初に聞いた音声。  わたしが次にとったのは逆張りでした。すべての音声にNoを押して、とにかく誰かと直に話そうという方策。おかげさまで「担当者にお繋ぎいたします」までは着たけれど、そこから延々1時間待たされました。どちらにせよ無駄な辛抱はデフォルトみたいです。  その人の回答は「送り主からヤマトに再発送を要請して、ヤマトがこちらに再発送の要請をしてくれたら再発送します」というわけのわからないものでした。そこで申し訳ないけれど千くんの手を再び煩わせることになりましたが、なんとか2月2日に再発送の運びとなりました。けれど、やっぱりこない……。  UPSはこちらには「ヤマトからの申請がなければ」ヤマトには「わたしの申請がなければ」と言うばかり。しまいには「保管期限過ぎたら焼却します」とかほざきやがってバカヤロー。千くんからの「これ以上やりあってもお互いに消耗するばかりだから諦めましょう」という提案がありました。でも〝そこらへんにあるもん〟への執着はもとより、なんだかここで諦めたらいけない気がしたのです。
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消耗の果てにやっと来た「立春大吉」
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