女性蔑視やゴシップ報道に壊された女性アイドル。今なお続く搾取の構図
久しぶりに彼女の名前を聞くという方も多いだろう。ブリトニー・スピアーズの新作ドキュメンタリーが話題となっている。
「いったい、なぜ今さらブリトニー?」と思われるかもしれないが、FXやHuluで公開された同作は、華やかな音楽や煌びやかなダンスの話ではない。
皆さんは坊主頭になった彼女の痛々しい様子を覚えているだろうか? 『フレーミング・ブリトニー・スピアーズ』は、セクシズムとセレブ文化の犠牲となったブリトニーとメンタルヘルスの問題を描いているのだ。
「フレーミング」には「ハメる」という意味もある。彼女の後見人となった父親や音楽産業、メディアや熱狂的なファンたちによって、ブリトニーはハメられたのではないかと同作は訴える。
このショッキングな内容に、SNS上では「#FreeBritney」なるハッシュタグも登場し、カーディ・Bやマイリー・サイラスといったポップアーティストたちが、ブリトニーの支援を表明した。
また、過去にブリトニーと交際していたジャスティン・ティンバーレイクや、テレビ司会者などは公に謝罪をするなど、『フレーミング・ブリトニー・スピアーズ』は大きな波紋を呼んでいる。
セクシズムやメンタルヘルスに興味がない人にとっては、「壊れてしまったアイドル」の話に過ぎないのかもしれない。しかし、同作はそんな「無関心な大衆」の罪深さも示唆している。
『フレーミング・ブリトニー・スピアーズ』を製作した『ニューヨーク・タイムズ』には、次のような記事が掲載された。(参照:THE NEW YORK TIMES)
“『USウィークリー』の表紙には大文字で「私を助けて」と書かれており、その下にはブリトニー・スピアーズが髪の毛の一部をバッサリ切った写真が並んだ。『ピープル』誌は読者を「ブリトニー衰弱の内幕」に誘うことを約束し、「ワイルドなパーティ、公共の場でのすすり泣き、丸刈り」の詳細でそそった。『OK!ウィークリー』誌は「助けを求める号泣」という直接的な言及で、潜在的な購買層を誘惑した”
明らかに不安定な精神状態にある20代の女性が、世界中のメディアから購買促進のダシにされる様子は、あらためて振り返ると異常だ。
しかし、これは決してアメリカだけの話でも過去の話でもない。日本でも、電車の中吊り広告や、本屋やコンビニに並ぶ雑誌の表紙を見れば、今でも「お泊まり」「密会」などの文字がデカデカと踊っているだろう。
“スピアーズの結婚、子ども、薬物乱用の問題や精神的な健康上の問題について、ときに息を呑むような報道をしたのは、パパラッチやタブロイド紙だけではなかった。それは当の『ニューヨーク・タイムズ』も同じだ。その他の新聞、テレビの報道番組、深夜のコメディ番組もそうだった。ゲームショー『ファミリー・フュード』でさえスピアーズをねじ込み、彼女が過去1年間で失ったもの(「彼女の髪」「彼女の夫」)を挙げるよう出場者に尋ねた”
ゴシップ誌だけでなく、主流なメディアまでもが何の疑問も抱かずにブリトニーを搾取することは、さすがに今では想像しづらい。しかし、たった15〜20年ほど前までは、それが当たり前だったのだ。
“『グラマー』誌の編集長サマンサ・バリーはインタビューのなかで、スピアーズに対する社会の扱いについて次のように述べている。「私たちは、二度とこのようなことをしない社会にいると願っています。セレブリティ、具体的には女性を持ち上げ、八つ裂きにするような社会です」
同記事は、メンタルヘルスへの認識や知識が向上したこと、SNSの台頭によってセレブが自身で情報を(ある程度)コントロールできるようになったことで、こういった状況は改善されつつあるとしている。
最新セレブもブリトニーを支援
主流メディアも20代の女性を搾取
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