窓口を一本化して団体交渉を行う「リニア新幹線・相模原地権者の会」に学ぶ
調布市の被害住民に「絶対に個別交渉に応じてはいけない」と訴える萩原安雄さん。写真は2019年5月、リニア裁判で意見陳述した後の記者会見
そして、その討論にアドバイスをしたのが神奈川県相模原市在住の萩原安雄さんだ。
JR東海が計画するリニア中央新幹線は最高時速505Kmで、2027年に東京(品川駅)と名古屋駅を40分で結ぶ計画だが、その工事は相模原市を直径14mという巨大シールドマシンで掘進する。萩原さんは数年前から「地盤沈下や陥没、そして振動公害が起きるのでは」と恐れていた。同時にJR東海から納得のいく説明がないことから、二十数人のルート周辺住民と
「リニア新幹線・相模原地権者の会」(以下、地権者の会)を設立した。
2019年5月17日。リニアは国交省が事業認可した計画だが、その取り消しを求めた行政訴訟の第14回口頭弁論で萩原さんは以下の意見陳述を展開している。
「私の自宅はリニア予定ルートから約50m離れた場所にある。だが、JR東海は何の説明もせずに準備工事を進めている。周辺の地質は脆弱で、シールドマシンの掘削で地盤沈下の危険性がある。そして、用地補償についてJR東海の説明は、『補償額が時価の15%程度』でしかなく、地盤沈下の原因調査費用も私たちが負担しなければならない」
これを打破するためには、JR東海との個別交渉に応じるのではなく、窓口を一本化しての団体交渉しかない。地権者の会は弁護士を窓口と決め、その弁護士がJR東海に「私以外の人には交渉するな」と通告した。そして実際に、JR東海からの個別交渉はない。
つまり、弁護士を介しての住民の意見が受け入れられない限り、JR東海の相模原市内での工事は進まないことになる。
「とにかく個別交渉はしてはいけない」5つのポイント
外環で使われる直径16mのシールドマシン。これだけの大きな穴が、外環では2本並行して掘られている(東京都のウェブサイトより)
萩原さんは被害補償勉強会で
「とにかく個別交渉はしてはいけない」と訴えた。ちなみに連絡会も、PCなどを使わない高齢住民のことを考えて「外環被害住民連絡会・調布ニュース」という紙媒体を発行、そこではNEXCOと交渉する際の「5つのポイント」を強調している(概要)。
① 個人情報は必要最小限に
連絡先のみ(名前と電話番号程度)の情報提供に留める。現時点でそれ以外の情報(住所、持ち家or賃貸、戸建or集合住宅、築年数、家族構成等)は書かないほうが良い。
② 1人で相談窓口に行かない
話は複数人で行い、自分以外に証人がいる状態をつくる。できれば録音などの記録を残す。(相手は専門家も含め3人がかりで対応する)
③ 要求はキッパリ伝える(損害賠償・補償基準)
「建物等の損害賠償」だけでなく、「騒音・振動・低周波音による健康被害」「地盤のゆるみや沈下で起こりうる将来的な被害」「資産価値の下落」に対する公平で明確な補償基準、「希望により買取り」を要求する。
④ 要求はキッパリ伝える(原状回復・工事再開条件)
「明確な原因究明と再発防止策の提示、住民への丁寧な説明、それに対する住民の納得と同意が必要であること」を強く主張する。
⑤ 署名、サイン、押印には要注意!
いかなる書面もその場で判断しないで必ず持ち帰り、家族や法律の専門家などに相談する。
外環は、直径16mという巨大トンネルが2本、わずか4m離れただけで並行して建設される予定だ。今回は1本目の工事での陥没や振動が起きた。そして2本目は未着工。住民は「もう1本来たらこの土地はどうなるんだ」と強い不安を抱いている。連絡会を含めて調布市民は、今後も外環工事再開の中止と適正な補償を求めて闘っていくことになる。
<文・写真/樫田秀樹>