記者会見や住民説明会でも、資産価値低下については答えず
調布市東つつじヶ丘2丁目では、今も外壁の亀裂などが町のあちこちで見られる
事故は振動や陥没にとどまらなかった。陥没現場周辺では、トンネル直上の地中で続けざまに3つの巨大な空洞が発見された。最初の空洞発見は11月3日。地表面から5mの位置で、幅4m、長さ30m、厚さ3mの大きさだった。
次が11月21日。地表面から4mの位置で、幅3m・長さ27m・厚さ4m。そして今年1月14日。地表面から16mの位置で、幅4m・長さ10m・厚さ4m。住民にすればたまったものではない。筆者は現場周辺で「もう引っ越したい」との声を何度も聞いている。
2020年12月18日、NEXCO東日本の社員と小泉淳・有識者委員会委員長(右端)が記者ブリーフィングを開催。シールドマシンが陥没の「一因」であるとは認めたが、詳細については今年度中に出される「最終報告」が待たれる
有識者委員会が事故原因の「中間報告」を出したのは12月18日。その概要は、
シールドマシンが小石の多い礫層で回転しなくなり、回転を促すための気泡薬剤を注入し過ぎたことで掘削面の土壌が緩んで、土を取り込みすぎることになって陥没につながったというものだ。
だが、有識者委員会の小泉淳委員長が強調したのは、
その場所が極めて稀な「特殊な地盤」だったということだ。つまり、
「特殊な地盤はめったに現れない以上、シールドマシンの再稼働には問題なし」と匂わせる内容だった。
さらに小泉委員長は、空洞については
「はじめから(工事前から)あったとしてもおかしくはない」と、工事との因果関係には触れなかった。
シールドマシンが陥没の「一因」であると認め謝罪するNEXCO東日本の社員
この日、NEXCO東日本と小泉委員長による記者会見で、筆者は改めて資産価値低下への補償について尋ねるつもりだった。すると、私より先に指名された記者がその質問をした。NEXCO東日本はそれにこう回答した。
「外壁の亀裂や門扉の不具合などの被害には補償する」
いや、質問は資産価値低下についてだ。その記者が再度質問すると、NEXCO東日本は
「個別に相談させていただく」と回答した。
そして2日後の12月20日、NEXCO東日本は「中間報告」を出したことについて住民説明会を開催。そこで住民から出された質問の多くが、やはり「資産価値低下について」だった。
「資産価値が低下した。買い取り補償してくれるのか?」
NEXCO東日本の回答は
「それに説明できるものを用意してない」というものだった。自分たちは補償されるのか、されないのか。住民はそれすらも教えてもらえなかったのだ。
1対1で交渉すると、補償金額を下げようとする事業者側に押し切られる
調布市東つつじヶ丘2丁目。この外壁も今、ポロポロと崩れている。「触るな」との注意書きが貼られていた
果たして、NEXCO東日本に補償への強い意思はないと露見したのは1月8日のことだった。この日同社は、家屋に被害を受けた住民のために「東京外かく環状道路工事現場付近での地表面陥没事象における家屋補償等に関する相談窓口」を設置した。
そしてここを訪れた住民が確認したのは、
同社は「団体交渉は受けつけない」ことを基本としていて、「資産価値の査定も、同社が委託する弁護士や不動産鑑定士が行う」との説明だった。
公共事業や大型事業で頻用される「個別(戸別)交渉」は、住民側にすればもっとも避けなければならない手段だ。というのは、例えば気の弱い人ならば事業者に押し切られてすぐに補償契約にサインをしてしまう。
それに加えて、その額面がいくらなのかは「お隣さんはウチよりも高くもらったのか。それともウチが高いのか」との心情から近隣住民には言えるものではない。そして地域に気まずさが流れ、一枚岩だった住民運動に亀裂が走ってしまう。
1月10日、陥没や亀裂などで受けた被害にどう対処するかを議題にZoom会議が開催された。右が外環裁判を担当する武内更一弁護士
これを危惧した連絡会と市民団体「外環ネット」は、2日後の1月10日に「被害補償勉強会」を開催。筆者はこれにZoomで参加した。勉強会の講師は、外環工事の差し止めを求めた裁判を担う武内更一弁護士と損害保険の実務経験者の山田大蔵氏が務めた。会場からは熱心な質問と意見が続出した。
「私の家の価値は下がった。NEXCOに3000万円を請求できるのか?」
「NEXCOは自宅にお詫びには来る。そういうポーズで一軒ずつ潰していくつもりだ」
「そもそも、みんなでどう交渉すべきか?」
「とにかく、1対1の交渉は避けるべき」
「NEXCOの行動原理は賠償金を下げることにある」