「免許を返納しても、タクシー運転手は年上」高齢化が進むタクシー業界の実情

 高齢ドライバーが社会問題化し、ひとたび事故が起これば、盛んに報道されるようになった。高齢化が進むタクシー業界はこの事態をどう見ているのか? 今回は、高齢タクシードライバーの実情に迫る!

高齢ドライバーは危ない?死亡事故は年々増加傾向

タクシー

写真はイメージです

「免許返納しても、タクシー運転手は年上。これじゃ、まるで落語だよ」  そう語るのは都内在住、自営業を営む鎌谷和彦さん(仮名)。昨年12月、ちょっとしたアクシデントに見舞われたと話す。 「流しのタクシーを止めようとしたら、車両が突っ込んできた。急に手を挙げたから焦ったんだろうけど、フロントガラス越しに見た運転手は私より年上に見える。結局、怖くて乗らなかった」  今年、70歳を迎える鎌谷さんは、自らも家族から運転免許を返納するように口うるさく注意を受けているからこそ「年寄りは運転しちゃダメ」と苦笑いを浮かべる。  高齢ドライバーの運転に不安を覚える声はこれだけに限らない。 「高速を降りてすぐのところで、タクシーを停車させ、運転手さんがカーナビをいじり始めた。使い方に慣れていないので、地図を拡大させたまま、画面を何度もスクロールさせて目的地を確認しようとする。指が乾燥しているのか、タッチパネルの反応も悪く、数分間も停車。後ろから追突されないか、ずっとヒヤヒヤしていました」(40代・女性)

「一律に高齢者は免許返納を!」は問題の解決を遠ざける可能性

 近年、死亡事故に占める高齢者の割合は増加傾向にある。’19年4月には、東京・池袋で87歳の男性が運転する乗用車が暴走し、母子2人が死亡。 タクシー この事件を契機に、高齢ドライバーの問題が改めてクローズアップされたのを記憶している人も多いが、高齢ドライバーが重大な事故を誘発していると見ていいのか? 山梨大学大学院教授・伊藤安海氏はこう分析する。 「死亡事故の割合が高いのは、ハンドルを握る高齢者自身が事故で亡くなるケースも多いからです。死亡事故を起こすから高齢ドライバーは危険なのではなく、体が虚弱になっているので事故で自らが犠牲になっている。  免許保有者10万人あたりの事故件数では、70歳以上の高齢ドライバーが起こすリスクは、若年層と比べても低い。今後も事故に占める高齢者の割合は増えていくでしょうが、それは少子高齢化と団塊世代の免許保有率の高さが相まってです」  1月に東京・渋谷区で73歳のタクシードライバーがくも膜下出血で意識を失い、横断歩道を渡っていた歩行者を次々とはね、女性1人が死亡する事件が発生。このように、体調の突発的な異変による事故には、高齢ドライバーが増えるなか、特に注意が必要だと伊藤氏は指摘する。 「海外の調査では、交通死亡事故の1割程度が運転手が意識を失うなど、健康起因と推定されています。加齢によって、健康リスクは高まる。  その一方で、運転している高齢者の認知症発症リスクは運転していない高齢者より4割減少することがわかっています。高齢者から免許を取り上げたら、今度は社会との接点が失われ、認知症や要介護者が増える危険性もある」  単に、高齢ドライバーの事故が増えているからといって、「一律に高齢者は免許返納を!」という意見では問題の解決を遠ざけてしまうかもしれない。
タクシー

東京・渋谷区。甲州街道で73歳の運転手が意識を失い、交差点に進入。「事故の約1割が意識消失などの可能性」(伊藤氏)写真/時事通信社

次のページ
タクシー業界の風景は日本の社会問題の縮図
1
2
3