共通テストが終了した翌日1月18日の時点での予備校の「数学I・数学A」および「数学II・数学B」の平均点の予想は次のようなものでした。
【数学I・数学A】
ベネッセ・駿台54 河合塾53
【数学II・数学B】
ベネッセ・駿台58 河合塾54
しかし、その後どちらも平均点の予想を上方に修正して次のようになりました。
数学I・数学Aが58点、数学II・数学Bが60点
(※20日に発表された中間発表では、数学I・数学Aが59.20 点、数学II・数学Bが 62.85 点です。)
つまり、受験生は予備校が考えていたよりもよくできていたということになります。これは、新しい試験であるために、受験生がこれまでよりも時間を割き努力してきたこともその要因の一つでしょう。
しかし、それ以外にも要因はあります。それは、すでに指摘したように、これまでのセンター試験とは異なり数値をマークする問題が減り、正しい数値や式を「選ぶ」だけの問題が増えたことがその一つです。ダミーの選択肢にも工夫が足りなかったということもあります。
また、「数学I・数学A」の第3問では、よくわからなくても会話の中にある方法で計算すれば答が得られるものがあり、第4問では、細かい議論をすればそれなりに難しくても気にしないであてずっぽうで計算すれば正解してしまうものなど、ともすれば真面目に考えた方が損をするようなものも見受けられました。
第5問の最後の問題では、H、B、D、E、Qが同一円周上にのることはありませんから、実質3つの選択肢からの選択問題ですので、時間が足りなくなって最後に適当に選んでもまぐれで正解する可能性は小さくありません。
このようなことが少なからず平均点を上げている要因になったと考えられます。これまでのセンター試験では解かなければまず正解することはあり得ない問題が多かったのに対し、よくわからなくても正解することがあり得るようになってきたわけですから、一部の塾・予備校などが学力を伸ばすこととは関係のないことを指南するなども今後起こり得ます。
最後に共通テストでは、誰が指示しているのかわかりませんが、会話文がいくつもの教科の試験で現れますが、この会話文が、「思考力」「判断力」「表現力」に貢献しているとは思えません。
数学の試験の場合は、作問者も作りにくそうな印象を受けます。今後、これを続けていくのかどうかを検討する必要があるでしょう。会話文では問おうとしていることがストレートに問えていません。
なお、倫理、政治・経済の第4問の会話文に次のようなものがありました。
P:昨日の世界史の小テスト、難しかったよね。歴史を覚えるのは苦手だなぁ。
Q:そう? 楽勝だったけどな。それにしても、「歴史を覚える」だなんて言っちゃって、歴史の本質が分かっていないね。だからテストもできないんだよ。
P:意地悪な性格だなぁ。過去の事実を正しく記録したのが歴史でしょ?
この中の「歴史の本質がわかっていないね。だからテストもできないんだよ。」の一文に気分を悪くした受験生もいたようです。会話文が「思考力」「判断力」「表現力」を問うのに本当に必要なのかを考えていく必要があります。
<文/清史弘>
せいふみひろ●Twitter ID:
@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。