2020年はコロナ禍でも日本映画の傑作が続々と生まれた1年だった!

4位『37セカンズ』

 過保護な母親のもとで車椅子生活を送っている、マンガのゴーストライターを主人公にしたドラマだ。主演の佳山明は、実際に生まれつき脳性まひがあり社会福祉士としても活動している女性であり、オーディションによって100人の候補から選ばれた。劇中で彼女が演じる主人公の声の“か細さ”が、劇中での「自分の気持ちを伝えたい」「自分の可能性を信じたい」と願う主人公の切実な気持ちにもつながっており、彼女に対し過保護になってしまう母親の気持ちもより伝わってくる。もしも脳性まひでない女優がこの声を演技でまねようとしてもできるものでもないし、そもそもまねをしてはならないだろう。  主人公はゴーストライターをやめて、自立をするために成人向けマンガ雑誌に原稿を持ち込むが、女性編集者から「作者に経験がないと良いエロマンガは描けない」と言われてしまい、ネオンきらめく歓楽街へと向かう。そのように物語の発端およびメインストーリーに“障害者の性”があるのだが、その後は意外な形で、広い世界への冒険の旅にも出発する。その後は、「可能性が例え制限されていた(障害があった)としても、その中で大切な価値観に気付くこともできる」という、障害のある人に限らない、全ての人に通じるメッセージも提示されていく。現実で前向きになれる、生きる意味そのものを説いた優しい物語に、感涙する方はきっと多いだろう。現在はNetflixで配信されている。

3位『初恋』

 前述の『ある画家の数奇な運命』や『ミセス・ノイズィ』をさらに超えて、バイオレンス、ヤクザ映画、アクション、コメディなど、あらゆるジャンルが渾然一体となった、凄まじいまでの面白さに満ち満ちているのが、この『初恋』だ。そのシンプルなタイトルを聞いて「ピンと来ない」という人も少なくはないだろうが、本作を表すのにこれ以上にふさわしい言葉はない。多数の要素を含んでいながら、初恋こそが物語で最も大切なのだから。  超豪華なキャストも見どころの一つであり、特に復讐鬼の役どころで登場するベッキーは基本的な行動が殴るか蹴るの暴行でいろんな意味ですごい。余命わずかと伝えられた主人公のボクサーを演じる窪田正孝は、現役選手を相手にした試合シーンも鍛え上げられた肉体で自らこなしていおり、全編にわたってそのカッコ良さに惚れ惚れとできる。  また、余命宣告もののラブストーリーというのは、日本映画ではごくありふれたものだ。しかし、この「初恋」には、三池崇史監督が得意とするヤクザ映画と、その作家性であるPG12指定納得の悪趣味なギャグが強烈にブレンドされたことで、全く新しい日本映画の新たな地平を切り開く傑作となっている。拍手喝采を送りたくなる見事なラストシーンまで、ぜひ見届けてほしい。
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誰もが加害者になりうるということ
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