2020年はコロナ禍でも日本映画の傑作が続々と生まれた1年だった!

6位『ミセス・ノイズィ』

 「騒音おばさん」の名前で有名になった2005年の奈良騒音傷害事件をモチーフとした映画だ。本作もまた多数のジャンルが詰め込まれているからこその面白さがあり、初めは迷惑なお隣さんとのバカバカしいバトルに笑えるコメディ、続いて精神的に追い詰められていくというホラー、さらに「SNS炎上」や「メディアリンチ」など現代ならではの問題をはらんだ社会派サスペンス、そして確かな学びのある感動の人間ドラマへと転換していくのだ。  本作は事件を再現する実録ものではなく、フィクションのオリジナルストーリーである。だが、最後まで観れば実際の騒音おばさんという人物や、その周りの出来事、ネットで話題になった「真相」の噂についても十分に配慮した、志の高い映画であることがわかるだろう。序盤はコメディだと前述したが、決して実際の騒音おばさんを笑いものにするような内容ではない、と強調しておく。そして、劇中で提示された「正しさ」や「争い」についてのメッセージは、きっと「明日は我が身」な危機感を持って認識できるはずだ。予想を覆す、あっと驚く展開もキモの作品であるので、ぜひ予備知識をあまり入れずに観ていただきたい。

5位『ドロステのはてで僕ら』

 人気劇団ヨーロッパ企画の、初となる劇場用長編オリジナル作品だ。カフェのオーナーが、モニターから“2分後の自分”が話しかけてくる様を目の当たりにし、女性店員や常連客を巻き込んでこの“タイムテレビ”を有効活用していく方法を考えていくという、コメディ色が強い内容となっている。  大きな特徴は「疑似ワンカット」であり、「リアルタイム進行」であるということ。これは簡単にできることではない。撮影に少しでもトラブルがあればかなり前から撮り直しになるし、俳優たちは劇中の物語通りに2分後の未来への“つじつま合わせ”をしないといけない。俳優と劇中の登場人物の奮闘がほぼ重なっていて、フィクションでありながらドキュメンタリー的な側面を持つということは、あの『カメラを止めるな!』にも似ている。  しかも、本作は「ドラえもん」でおなじみの藤子・F・不二雄が提唱したジャンルであるすこし・ふしぎ(SF)にリスペクトを捧げた物語である。「ありふれた日常の中に紛れ込む非日常的な事象」であるすこし・ふしぎな物語から、普遍的に全ての人に響く「時間」にまつわるメッセージにも、確かな感動があったのだ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を初めとする「狭い範囲のタイムトラベルもの」が好きな方にも、ぜひ観ていただきたい。
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脳性まひの女性が一歩踏み出す物語
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