2020年はコロナ禍でも日本映画の傑作が続々と生まれた1年だった!

8位『ある画家の数奇な運命』

 ナチス政権下のドイツにて、一人の男の半生を子ども時代から追い、「アートとは何か」という根源的な問いに迫ったドラマだ。邦題にものものしさを覚える方もいるかもしれないが、実際はドラマ、コメディ、ラブロマンス、サクセスストーリー、サスペンスと、たくさんのジャンルの要素が詰め込められており、3時間超えの上映時間があっという間に感じるほどにエンターテインメント性が高いため、万人におすすめできる内容になっていた。  物語の背景に戦争と世界情勢の大きな変動があり、当時のナチスの残虐な行為もつぶさに作劇に反映されている。そんな中でも、アートに主人公は人生を捧げる。そのアートは、過去や今の悲しみを、未来への幸福へと変える手段にもなり得るということも、本作は教えてくれていた。『フォレスト・ガンプ/一期一会』や『この世界の片隅に』などに通ずる、戦争の時代に生き抜いた人物の生活を描く物語を追うことは、誰にとっても豊かな体験になるはずだ。 【もっと詳しく】⇒傑作映画『ある画家の数奇な運命』で描かれる、ナチスでも奪えなかったアートの力とは

7位『透明人間』

 天才科学者である夫から束縛されていた女性が、豪邸から脱走するも、その後に夫と思しき透明人間から襲われ続けてしまうというホラーサスペンスだ。劇中で描かれる、(DVをしていた夫から逃げ出すことができたとしても)「いつかあいつが現れるかもしれない」という恐怖は、現実における男性から暴力を受けた女性の心情そのもの。透明人間の「見えないのに、いるように思えてしまう」という特徴が、普遍的な暴力によるトラウマのメタファーになっているというのが秀逸だ。  「判断を間違えば殺される」透明人間とのバトルに手に汗握り、主人公が徐々に孤立していく過程にゾッとし、その後の反撃の手段には驚きのアイデアもあると、とにかくエンターテインメントとして面白い要素が揃っている。「あの時のこれがこうなるのか!」と驚ける伏線回収もたっぷりあり、主演のエリザベス・モスの熱演は誰もが絶賛するだろう。人によって解釈が異なるクライマックスからラストには、言葉にならないほどの衝撃がある。「透明人間」というジャンルだけでなく、ホラーサスペンスの1つの到達点と言うべき傑作だ。 ちなみに、現在Amazonプライムビデオでは、同じくリー・ワネル監督によるホラーサスペンス映画『アップグレード』が見放題となっている。全身麻痺の男が最新のAIチップを埋め込まれ驚異的な身体能力を獲得し、妻を殺害した組織に復讐を誓う、といういかにもB級に思えるあらすじであるが、ケレン味たっぷりな演出や、見せ場がたっぷりのサービス精神に満ちた掘り出し物になっていた。こちらも合わせて観ていただきたい。
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「騒音おばさん」をモチーフにした感動の人間ドラマ
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