コロナ禍で変わった生活様式。その背景にあるテクノロジー。IT関係の2020年を振り返る

日本通信業界の巨人、ドコモをめぐる2つの話題

●7. 2020年9月 ドコモ口座 不正出金  NTTドコモが提供する電子決済サービス「ドコモ口座」を利用した、銀行からの不正出金の問題が表に出た(ITmedia NEWS)。以前から指摘はあったようだが、根本的な対応をせず、営業に力を入れ続けて対策を怠った。その後、問題はドコモ口座だけでなく、様々な方面に飛び火していった。  被害のあった銀行はいずれも「Web口振受付サービス」を使って連携していた。アナログ時代の古いシステムに、ネット時代の新しいシステムを接ぎ木したせいで起きた問題ともいえる。アナログ時代にはできなかった総当たりの攻撃が、ネット時代では容易にできてしまう。そのため安易にシステムを連携すると、勘の鋭い人は攻撃手法を見付けてしまう。  新型コロナウイルスの影響もあり、今後さまざまなシステムがネット対応に移行していくだろう。その際に、古いシステムと新しいシステムを安易に連携すると、似たような攻略方法が出てくる可能性もある。対岸の火事ではなく、身近に起こりうる問題として認識しておくべきだろう。 ● 8. 2020年9月29日 NTT、ドコモ完全子会社化を発表  NTTが、ドコモ完全子会社化を発表して、TOBをおこなった(日本経済新聞日本経済新聞)。  これは、日本の通信史を考えても、非常に大きな話だ。民営化して分社化をしていた日本の通信の中枢が、大きな統合をおこなうという話だ。ちょうど最近、国の通信主権の歴史の本を読んでいたので、特にそう感じた。  いつの時代も、国家が自国の通信分野をどう設計していくのかは重要だ。中国やロシアのように、自国内の個人の通信を、国家が監視下に置こうとしている国もある。そうではなく民間の自由に任せるという国もある。いずれにしても、インフラが適切に存在していなければ通信をおこなうことはできない。NTTもドコモも、この大きな部分を担っている。  「ここが、こけたら日本は終わるよなあ」というところだ。今後、どうなるのか注視せざるをえない。

政治、エンタメ。変わっていく時代

●9. 日米政権交代  日本では首相が替わった。アメリカでも選挙でトランプ氏が敗れた。長らく続いてきた体制が多少なりとも変化するはずだ。当然影響は多く出てくる。  日本では、デジタル庁を発足させるようだ。民間から人材を募集するという話も出ている(ITmedia NEWS)。仕事は民間が作るものも多いが、国が事業として推進して作るものも多い。  奇しくも日本とアメリカで同時期にトップが変わった。少なくとも、前とは違う面を押し出してくるのだろうと思う。 ●10. 2020年10月26日 映画『鬼滅の刃』大ヒット  映画『鬼滅の刃』が、歴代最速で興行収入100億円を突破した(NHKニュース)。エンターテインメント業界では、今年1番のニュースで異論は無いだろう。ヒットの背景には、原作の面白さ、アニメの出来のよさもあるが、新型コロナウイルスとIT技術も関係していると感じている。  『鬼滅の刃』の映画は、テレビアニメの続編だ。本来なら、テレビを視聴した人しか興味を持たない作品のはずである。しかし多くの人が、今回映画館に足を運んだ。それは、ネットの有料動画で『鬼滅の刃』のアニメを見たからだ。  NetflixHuludアニメストアなど、ネットで手軽に有料動画を見られるサービスは多い。  新型コロナウイルスで、小中高の一斉臨時休校がおこなわれた時期、多くの家電通販サイトで、10インチタブレットが売り切れた。急激な需要の高まりは、暇な子供の時間を潰させるためだろう。  家に子供がいる家庭では、子供の時間を潰すために動画を見せる。Youtubeのような無料動画だけでなく有料動画も見せる。Youtubeを与えていると、子供向きではない動画も見てしまうので親の手が掛かる。有料動画でアニメを見せておけば、数十分、目を離していても大丈夫なので、親が自宅で仕事ができる。値段も、dアニメストアなら月に400円なので安いものだ。  ヒカキンが子供に人気なのは、子供がヒカキンのことを好きなだけでない。親が「ヒカキンなら安心だ」と思って、動画を停止させないからという理由もある。ヒカキンは、日本最大級の子守り業者だと私は捉えている。  新型コロナウイルスの影響で、この時期、子供の多くが、アニメを見て過ごした。そして「話題だから」と『鬼滅の刃』を見る子も増えた。そうした子が一定数以上いれば、見たことがない子も話題に乗ってくる。「○○の呼吸」と叫んで遊び始めるのは、私たちの子供時代と同じだ。  そうした、ネット経由で子供たちに情報が共有される現象は、2018年頃にもあった。それは、米津玄師がプロデュースした『パプリカ』だ。子供たちは、ネットの動画で物凄い回数『パプリカ』を見た。そのことでこの曲は、保育園や小学校を中心に、社会現象になった。  『パプリカ』は無料動画だったが、『鬼滅の刃』は有料動画だ。Youtube で違法アップロードや、違法まとめ動画もあるのだが、基本は有料動画だ。多くの子供が見たということは、その時期に多くの人が、ネットの有料動画にお金を払ったということだ。  私も、dアニメで『鬼滅の刃』を見て、映画館に足を運び、全巻マンガを買った。『鬼滅の刃』は、コロナの閉塞感をぶち破ってくれる楽しさを提供してくれた。  長々と書いたが、今年は新型コロナウイルスに始まり、新型コロナウイルスに終わるという感じだった。いや、まだ終わっていない。感染者が増えてきて、本当に大変なのは来年だ。国家の中枢にいて権限を持った人が、専門家の話を聞き、適切な対策をおこなってくれればと願う。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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