「憲法知らず」が憲法を振り翳す愚と危険<憲法学者・小林節氏>

弁護士会会員個々人には反対する自由が保障されている

 まず、弁護士になろうとする者は弁護士会に所属しなければならない。だから弁護士会は強制加入団体と呼ばれている。しかし、それは実は国家も同じである。この地球上で生きていくために、国際法上、人はどこかの国に所属しなければならない。  私達が所属している日本は自由で民主的な国家なので国民の政治的見解は多様である。しかし、言論、選挙、議決を経て、沢山の見解の中の一つだけが国の意思として採用され、法律・予算になって強制される。それでも、各人はそれに従いながらもそれを批判する自由が保障されている。  同じく、弁護士会も、対立のある政策課題について、討論と議決を経て、会としての立場を宣明することがある。それでも、それに対して会員弁護士が個々に反対を表明する自由は完全に保障されている

法学の基礎知識すらない者の愚かさと危険性

 また、「行政」とは、国会が目指す社会状況を実現するために可決した法律と予算を公平に執行する作用である。そういう意味で、弁護士法(国会の意思)が目指す社会状況(つまり、有資格の弁護士が多数活躍して国民の人権が守られている状況)を実現するために、弁護士会は弁護士の登録を管理し、必要に応じて懲戒を行っている。この役割は、学問上の分類としては確かに「行政」作用である。  しかし、憲法を全体として見れば答えは明らかである。憲法は、まず、人権の保障を大原則として明記している(11条、97条)。そして、そのために司法の独立76条3項)と弁護人依頼権37条3項)を保障している。  諸国の歴史的体験に照らして、人権侵害の最大の主体は公権力であり、それから国民を守るものが独立した司法と、国家権力に管理されない弁護士の存在である。  だから、弁護士会が担っているある種の「行政」権は、憲法が明文で認めた65条の例外である。  このように条文上明白なことについて、憲法は「全体として」読まなければならないという法学の基礎知識も持たない者がしたり顔で憲法を振り翳している姿は愚かで危険である。
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全体主義に向かう「いつか来た道」
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月刊日本2021年1月号

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【特集2】安倍晋三氏に議員辞職を勧告する
【種苗法改正 特別インタビュー】