「憲法知らず」が憲法を振り翳す愚と危険<憲法学者・小林節氏>

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ある論壇サイトで見かけた「幼稚な暴論」

 スマホを見ていたら、ある論壇サイトで、「弁護士会から日本国憲法を取り戻せ」という勇ましい主張に遭遇した。  曰く、「弁護士会が会員に対して行っている登録、懲戒は『行政』作用である。憲法65条には『行政権は内閣に属す』とある。だから、弁護士会を(独立機関のままにせず)内閣の管理下に置け」。  結論・評価を先に言っておくと、これは恐ろしく幼稚な暴論である。しかし、現実にはこれが責任ある編集者の審査を経て公になり、今の右派論壇と自民党の中には「その通り! 良くぞ言ってくれた」と受け取る勢力が存在することを知る私としては、今の内にきちんと反論しておく必要を感じる。

弁護士会の正当な活動を封じ込めたい人々の愚論

 弁護士の使命は「人権擁護と社会正義の実現」である(弁護士法1条)。だから、特定秘密保護法、共謀罪、合法的盗聴対象の拡大等、人権を不当に制約する危険性のある立法や、海外派兵を可能にする立法の場合のように法の支配自体が壊されかねない時には、弁護士会は、法律の専門家集団らしく、理路整然とした反対声明を出してきた。  そうした弁護士会の正当な活動が気に入らない人々から、「強制加入団体である弁護士会が、(会員個々の意見は多様なのに)特定の政治的見解を公式に表明するのは不当である」「このような片寄った団体に自律性を認めている弁護士法は正しくないから改正して、弁護士会は内閣の監督下に置け」といった批判が出て来てはいた。  しかし、憲法に照らして、それらの批判はどちらも間違っている
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憲法は「全体として」読むという基本すら知らない者ども
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