なぜ国会報道は政局報道になってしまうのか? 求められる「論点に沿った」報道

論点を軸にした国会報道を

「『逃げ切り』に自信」の冒頭の記事も、改めて見直してみれば、報じられているのは「政局」だ。「野党は、答弁を不安視される首相に照準を合わせ追及する方針だ」「(自民党幹部は)『逃げ切り』に自信を示す」「(野党関係者は『政権へのダメージになる』と指摘する」。「照準」という言葉に見られるように、ここでもまるで対戦ゲームのように、いかに相手にダメージを与えるか、いかにポイントを稼ぐかに国会審議のねらいがあるかのように描かれている。  そこに欠けているのは、何が論じられ、その論点はどうなったか、だ。日本学術会議の任命拒否問題で言えば、菅首相が恣意的に違法な任命拒否をおこない、そのことについてまともな説明も国会でおこなわなかった。だから野党は集中審議で引き続き学術会議の問題を取り上げることを求めている。そういう事態であることがこの記事では全く記述されていない。  いや、「恣意的」とか「違法」とかは判断が分かれることだから、そういう主観的な判断をストレートニュースに混ぜることはできない、と反論が来るかもしれない。ならば野党の指摘と政府の答弁を論点整理すればよいではないか。野党は繰り返し、学術会議の会員の任命は「形式的任命」だという83年当時の答弁に言及した。恣意的な判断の余地は考えられておらず、答弁でも推薦の通りに任命すると法解釈を詰めていることが答弁されていた。立憲民主党の小西洋之議員は、当時の資料を丹念に掘り起こして質疑に臨んだ。  しかし菅首相はそれらを受けとめず、解釈は変更していないと主張し、83年答弁について加藤勝信官房長官は、40年前の国会答弁の趣旨を把握することは難しいと、過去の国会答弁の意味を無効化する発言を行った。  そういう論点整理をおこなうことの方が、「逃げ切った」とか「政権へのダメージ」とかの「与野党攻防」を論じるよりも大切ではないのか。なぜそういう論点を軸にした報道ではなく、「与野党攻防」という対戦ゲームのような報じ方が政治部による節目節目の国会報道の「スタンダード」であるのか。  山崎雅弘氏の批判も、「『逃げ切り』に自信」という記事への多くの人の違和感も、結局そこに行きつくように思われる。政局報道もあってもよい。しかし、政局報道ばかりでなく、国会を見続けている政治部記者は、もっと論点に沿った国会報道をおこなうべきだ。  論点に沿った報道をおこなえば、事実を記述しながらも、何が問題と指摘されたのか、その問題に対して政府が説明責任を果たしたか否か、といったことを記事にできるはずだ。そういう記事があって初めて、野党の「追及」が正当なものであるか否か、政府与党の「逃げ切り」が正当なものであるか否か、読者が判断できる。  国会審議では野党議員は敵失をねらったり政党アピールを繰り返しているわけではなく、学術会議の問題で言えば、記者が任命拒否の違法性を繰り返し問うて説明責任を求めているのと同様に、野党議員も違法性を繰り返し問い、説明責任を求めている。その意味では、報じるべきことはたくさんあるはずだ。なのに、野党議員の質疑が論点に即して取り上げられることは少ない。批判的な視点は、識者のコメントに求められがちだ。しかし、任命拒否の撤回のような「結果」が出なければ国会審議の内容は報じるに値しない、というわけではないだろう。  論点に注目せずに、まるで対戦ゲームのように国会を見てしまうと、「ゴールを許さなかった」「負けを認めなかった」政府与党の「勝ち」のように見えてしまう。野党はなんとか「敵失」をねらっても、「ダメージ」を与えることに失敗したかのように見えてしまう。客観的な政局報道のように見えて、そのような報じ方は、政権側に「余裕」があるように見せ、野党側を「無力」であるように見せる報道になってしまう。そのような政治報道は、冒頭に紹介した山崎雅弘氏が語る通り、「論理的な批判の腰を折るという面で『堕落のアシスト役』ですらある」。  そのような「政局」報道に偏することをやめ、論点を軸にした報道に重点を移せば、野党議員の役割をより正当に伝えることになり、報道もより権力監視の役割を果たすことができるはずだ。野党議員の法案審議や行政監視活動を、まるで政権へのダメージをもっぱらねらった作戦であるかのように報じていないか。政治部記者の方々には、言葉遣いも含めて、ぜひ自己検証していただきたい。 ◆短期集中連載「政治と報道」第7回 <文/上西充子>
Twitter ID:@mu0283 うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。また、『日本を壊した安倍政権』に共著者として参加、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆している(ともに扶桑社)。単著『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)ともに好評発売中。本サイト連載をまとめた新書『政治と報道 報道不信の根源』(扶桑社新書)も好評発売中
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