前回までに、COVID-19パンデミックについて本邦と海外の統計を比較することにより本邦は、二波のパンデミックを経る事でベースライン(Baseline基準線)がもともと米欧の1/100〜1/10程度という謎々効果に守られた東部アジア・大洋州諸国の特徴を失い、6月の西欧並みに増加してベースラインが新規感染者数で4ppm程度となり、且つ漸増中であることを指摘しました。現在ニュージーランド、豪州、韓国は、0.5ppmから1ppm程度のベースラインでありかつそれぞれ大小の第二波の制圧に成功し、ベースラインをもとの0.01〜0.1ppm程度に押し下げつつあります。
この
ベースラインという考え方は、筆者だけの考えではありません。筆者は完全に忘れていたのですが、例えば
アンソニー・ファウチ博士も5月頃からずっと重視してきており、「ベースラインが高すぎる。私はこのような状況に満足していない。このままでは大変なことになる。」と5月から6月にかけて記者会見だけでなく街や放送局にまで繰り出して説いていました。結果は第二波パンデミックで合衆国は死者数二倍、感染者数は数倍となってしまい、4月の合衆国市民によるたいへんな努力は全てパァとなりました。
ホワイトハウス・新型コロナウイルス対策タスクフォースが事実上機能を失った今、ファウチ博士は神出鬼没で街に議会にメディアに現れ、精力的にベースラインを下げること、マスクを着用することを力説して回っています。先日もCNNに遠隔で登場し、「ベースラインが高すぎる、このままではとんでもないことになってしまう。」と力説していました。79歳のご高齢でこの熱意と献身、専門家としての優れた知見と高い倫理観、頭が下がります。
また現在、本邦以外の北半球諸国では、「秋の波」または「秋の嵐」と呼称されパンデミックの本番として保健当局、政府は厳戒していますが、この秋のパンデミックについて、既にフランス、英国、スペインでは再度のロックダウンも視野に入れた介入が行われるほどに顕在化していること、合衆国ほか北半球諸国の多くで発生が強く疑われていることを述べました。また南半球では豪州で明確な「秋の波」が発生し、現在終息しつつあることも指摘しています。
この「秋の波」は、かつて全人類の1/4〜1/3が罹患し、人類総人口の1/40〜1/20が死亡した1918パンデミック(スペインかぜ)の本番であり、春から夏の第一波がたいしたことなく油断した人類に決定的な大打撃を加えた経験から、COVID-19パンデミックでも本邦以外ではこの半年間最も警戒されてきたことと言って良いです。
合衆国・旧西側西欧諸国(抜粋)における100万人あたり死亡率の推移(2020/06/01以降7日移動平均 線形ppm)
6月にスペインで不自然なグラフの跳ね上がりがあるが、これは統計の集計漏れを一度に取り込むなどによって生じた異常値であり、この日にたくさんの人が亡くなったわけではない。こういうエラーは、本邦含め世界中で生じている。
Our World in DATA
パンデミックとの闘いでは、
統計=数字が羅針盤であり海図に相当するたいへんに重要なものです。質が高く、透明性の高い統計があればパンデミックへの対処にはたいへんに有益ですが、
本邦の統計は極めて透明性が低く、質も低いと言うほかありません。また、本邦では殆ど市民の目に届きませんが、
科学的手法に基づいた予測は極めて重要で、全世界で400近い予測が存在し、評価されています。これらのうち、六つの予測、特にその中で
IHME(保健指標評価研究所) 、
YYG(Youyang Gu氏個人による) 、
LANL(ロスアラモス国立研究所) 、
ICL(インペリアルカレッジロンドン) の四つの統計分析と予測を筆者は主たる参考にしています。
これらの予測は、それぞれの予測モデルこそLANLを除きSEIRモデル(感染症数理モデル)ですが、用いるデータ、経験的手法の採用の有無など様々な点で相違があります。そしてそれぞれに癖がありますが、特に長期予測については、統計に立脚した科学的手法であるが故に共通した、または独特の癖があると考えられます。
筆者は、ホワイトハウス・新型コロナウイルス対策タスクフォースがブリーフィングで多用してきた実績のある、IHMEの予測を多用していますが、四月以降IHMEの予測を使ってきた上で注意すべき点がいくつか明らかになってきました。今回からそれらについて特にIHMEの予測について論じてゆきます。
なお、IHMEはその予測に用いるモデルを3月の予測公表以来2回変更しています。特に5/4に行われた変更では、モデルを全面的に見直しています。本稿では、基本的に六月以降の現行モデルによる予測について述べます。