身近な知人が「LGBT嫌悪」を吐露。政府が差別を助長する国で、彼はなぜ憎悪を抱えたのか?

「見えないヘイト」に光を当てるべき

 このやりとりを見てもらえばわかるとおり、知人Pには何か確固たる理由が(そもそも差別を正当化できる理由などないのだが)あるわけではない。本人が述べたようにテレビでの報道や、のちに別な会話のなかで明らかになったのだが、保守的な宗教観で育ったことも影響しているのかもしれない。理由は何にせよ、「なんとなくLGBTが嫌い」という程度のことだったのだ。  前述のとおり、ポーランドでは与党がおおっぴらに反LGBTQ的な政策を推し進めている。しかし、そういった背景にはこうした隠れたLGBTQへの偏見があるのかもしれない。国民の間に蔓延していた偏見を政府が掬い上げているのか、それとも政府がそれらを助長しているのか、あるいはその両方なのか……。  ともかく、直接的にLGBTQに対して暴力を振るったり、罵声を浴びせることはないにせよ、漠然とLGBTQに悪感情を抱いている人間が自分の身近にいることはショッキングだった。そして、「法と正義」が大統領選で勝利したことからもわかるように、そうした人物は決して少なくないのであろう。  そして、こうした「目に見えないヘイト」はポーランドだけの問題ではないはずだ。「お互い関わり合わなければいい」と思う読者の方もいるかもしれないが、昨今のBLM、そして過去の歴史を振り返ってみても、漠然としたヘイトが大規模な暴力に発展することは珍しくない。PがLGBTに対して悪感情を抱いていることも、そもそも話題に挙がらなければ気づかないままだっただろう。  今回のやりとりを通して、ヘイトは「見えなければいい」のではなく、むしろ積極的に光を当てていく必要があるのではないかと強く感じた。 <取材・文/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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