日本経済にメガトン級の時限爆弾スイッチを入れたアベノミクス
この低い成長でさえも主な要因はアベノミクスの三本の矢の1本目。異次元の金融緩和によってもたらされたといっていい。金融緩和と公的機関の莫大な買い支えによって株価が上がったことによる恩恵だ。しかし、この
金融緩和こそ、日本の財政と、金融システムを支える日本銀行のバランスシートを著しくいびつなものにしてしまっている。
米国などは金融緩和に
出口戦略が用意され、果敢に通常運転に戻そうとしているが、日本にはその兆しもなく、経済そのものが
異次元の金融緩和ありきの体質になってしまった。それは未来永劫に続けられるものではない。つまり、
アベノミクスは日本経済の将来にメガトン級の時限爆弾のスイッチを入れてしまったのかもしれない。この8年弱で日銀の国債保有比率は11.5%から47%にまで増えてしまっている。ここまでしてもデフレ脱却は容易ではないのだ。
黒田日銀総裁は就任当時は
2年で年率2%の物価上昇を実現してデフレから脱却するとした。そのような緩やかなインフレは、決して褒められた政策ではないが、巨額の財政赤字を抱える財政にとっては漢方薬のように緩やかな治癒への道を開くはずのものだ。しかし、その目標はついに
1年たりとも実現することなく、最近では黒田日銀総裁自身も口にすることはなくなった。
安倍首相が辞任会見で雇用創出については、安倍政権の実績として強調した。私は
それこそが、この7年8ヶ月で実現できなかったことだと申し上げたい。
確かに、完全失業率は4.1%から2.8%にまで低下。有効求人倍率も1を超えている。これらの数値を見る限りでは、日本で働く人は増えたかもしれない。しかし、その
雇用の質は劣化し、夫婦が共働きでやっと家計が成立するとか、一度退職した後も生活のために働き続けなくてなならないほどに追い込まれている。
かつては格差が問題となったが、
非正規雇用の待遇を生活ギリギリの低いまま固定化して常態化させたため、正社員にも影響がでた。働き方改革によって残業代が減り手取りが減ったという正社員、これまで中間所得層の上位で日本の消費を引っ張る原動力だった層も、ホワイトカラーエグザンプション(高度プロフェッショナル制度)で手取りが落ちた。
実質賃金指数は政権発足時に104・5だったものが現在は100を切っているのだ。
先進国でダントツに低い最低賃金ギリギリの仕事ばかりが求人で目立つ。
副業、ダブルワーカーも珍しくなくなった。さらに、
消費税が2回上がっただけでなく、
健康保険料や年金保険料などの社会保障費も支払いも増えてしまい
可処分所得はかつてないほど凍りついている。
企業はいち早く免除された東日本大震災の復興特別税も、個人の所得税からは徴収され続けている。
年金や健康保険制度の費用を払っておけば老後は安心なのかと思いきや、2019年には
年金2000万円問題が起きた。自営業者向けの国民年金はもちろん、年金の支給額が比較的高いサラリーマン世帯でさえ、年金だけでは老後の生活が成立しないと明らかにされたのだ。日本の公的年金制度は世代間扶助が基本である。しかし、今のリタイア世代は経済的に余裕のある生活をする人も少なくなく、むしろ年金保険料を払っている現役世代の生活の方が苦しかったりする。年金制度を抜本的に改革が求められているのに、マクロ経済スライド制度のような、年金支給額を将来は目減りさせていく制度は発動された。安倍政権でできてしまった数々の経済的なほころびが、最低限ギリギリで我慢して暮らしている生活さえも襲うのではないかと、不安に思うのだ。
安倍内閣の歩みを最後にまとめておいたので、個々でこの内閣を振り返って欲しい。