共謀罪法案の強行採決、森友加計問題発覚、さらにはこんな人たち発言で支持率はまたもや落ち込む。都議選の結果は巨大与党の危うさも露呈したと見られた。そのため野党も強気に臨み、10月には衆議院解散となるのだが安倍政権は大勝する。いや、正確には野党が自滅した。それは、小池都知事が立ち上げた希望の党との合流、分裂騒動だった。野党第1党であった民進党が3つに分断され、それまで進んでいた他の野党との共闘も大きく後退したのだ。
小選挙区がメインの総選挙で野党が個別バラバラに分断されてしまえば勝てるわけがないのである。唯一の例外が、このような流れの中でも全選挙区で野党共闘が堅持された沖縄だった。全ての選挙区で野党候補が与党候補を打ち破るという結果になった。
安倍政権は常に沖縄と対立した。沖縄が何度も選挙や住民投票で
辺野古の新基地反対を表明しても
建設を強行した。
その地盤はあまりにも柔らかく、美しい海を破壊し生態系に影響を与えたにも関わらず、その完成の可能性やいったい幾らの建設費になるのかも分からなくなってしまった。
対立は東北ともあった。参議院選挙の各県一人区の戦いでは不完全ながらも野党は共闘し、東北地方では過去2回の参議院選挙で安倍政権は事実上の敗北をしている。それは、政権復帰直前の2012年の総選挙ポスターに自民党はデカデカと「
ウソつかない。TPP断固反対 ブレない。」と有権者に公約したのにも関わらず、政権を奪取すると、
あっさり翌年には加入へと方針転換したことからくるのだろう。有権者は裏切られたのだ。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の影響をもろに受けるのは米どころ東北だ。特にトランプ政権が不参加を決めた後は、アメリカの意向を配慮して加入しなくてはならなくなるという建前上の言い訳もできなくなった。
私は第2次安倍内閣では日本に
民主主義に関わる大きな負の遺産を残したと思う。それは、
立憲主義や法の遵守、国会質疑など民主主義の根幹に関わることが著しく毀損されたことだ。また、内閣が人事権をフルに行使するため、
公務員は忖度に走り、政権に都合の悪い公文書は、隠蔽、書き換え、破棄までしてしまう。さらに本来は権力に対して一定の距離を保ち批判的精神が必要な
メディアは政権の顔色を常に伺う。もはや報道というよりも
政権の広報のような番組が増える。政治への不満はあっても政治への関心は諦めとなり、大切な国政選挙の投票率も極めて低くなった。安倍政権は国政選挙で6連勝したというが、投票率50%の過半数では、もはや有権者の4分の1しか明確な信任をしていないという事実をもっと自覚すべきだと思う。このような負の遺産をどうやって立て直すのか。果たして継承するのか。不安でならない。
辞任会見で安倍首相は、拉致問題、日露平和条約(北方領土問題)、憲法改正など最重要課題としたことが実現できずに痛恨の極みとしたが、一方で経済に関しては就任当時から400万人の雇用創出させ経済を成長させたと胸と張った。また、経済界からもその功績を讃える声は少なくない。果たして経済はうまくいったのか?
安倍政権の経済政策の大きな柱は、
アベノミクスであった。三本の矢で20年以上続いたデフレを打破するとした。異次元の金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略である。私は成長戦略に期待した。福島の原発事故があった日本だからこそ、再生エネルギーや火山大国を利用した地熱発電といったクリーンエネルギー産業、デジタル産業、日本のおもてなし文化を背景としたサービス・物流産業、また、IPSなどを利用した生命科学分野でも日本には次世代のリーディング産業になるものが幾つもあると思うのだが、それらが政治によって前面に出てくることはなかった。
成長戦略で目立ったのは、
原発輸出やIR統合型リゾート、新幹線などの従来型のものばかりで、途中で頓挫したものも多い。この8年弱の間に、エネルギー産業も、デジタルも、物流も、生命科学などでも
世界に遅れをとってしまったのではないかと心配している。それでも、日本企業は変わった。しかし、その原動力は安倍政権でなく黒船だ。8年前と比べて、外国人投資家の株主としての存在感が高まったために、コーポレートガバナンスが効くようになってきた。そのため歴史ある部門を手放さざるを得なかった企業もたくさんあるが、それは変化のための痛みなので仕方がないとも言える。
アベノミクスで日本の実質GDPは498兆円から2019年10ー12月期には529兆円となった。成長はしたものの、力強い成長とは決して言えない。さらに、この数字さえ素直に受け取ることができない。なぜなら、2015年に
GDPの算出基準を変更し、名目で30兆円も増やしていたのだ。そんなカラクリが数字には隠されている。そして、このコロナによってGDPは485兆円まで落ち込んだ。