質問主意書に対する答弁書は、官僚が案文を作り上げる。国会での安倍首相や大臣らの答弁も、多くは官僚があらかじめ用意した答弁書を、棒読みする場面が多い。つまり国会答弁で多用されている「ご飯論法」の多くは、安倍首相や大臣らのオリジナルな言葉ではなく、
官僚が答弁のために頭をひねって考え出したものだ。
いったい何のためか。「野党が何を聞こうと、それに対して誠実に答える必要はない。誠実に答えてしまうと面倒なことになる。だから、虚偽答弁にならない範囲で、それらしい答弁書を作っておけ」という政府の要請にこたえる形で、あるいは、そのような政府の姿勢を忖度して、官僚が「ご飯論法」答弁を用意していると考えるのが妥当だろう。
虚偽答弁はそれが発覚すれば大きな問題になる。しかし論点ずらしの「ご飯論法」は、同じく不誠実な答弁であり、実質的には「答弁拒否」であるにもかかわらず、虚偽答弁のような大きな問題にならず、そのような答弁を行ったことについて、責任が問われることもなかった。
しかし、このような
「ご飯論法」が蔓延すれば、国会審議は意味を失う。そして「ご飯論法」の答弁書を苦心して作る官僚たちに、結局責任は押し付けられる。
安倍首相は8月28日の辞任表明会見で西日本新聞の記者に「
政権の私物化」批判について問われ、
「政権の私物化は、あってはならないことでありますし、私は、政権を私物化したというつもりは全くありませんし、私物化もしておりません。正に国家国民のために全力を尽くしてきたつもりでございます。」
と平然と答えた。森友学園問題、加計学園問題、「桜を見る会」問題等、様々な政権の私物化が問われながら、のらりくらりと逃げ回るための都合のよい答弁書を官僚に書かせて国会審議をやり過ごしてきた、その果てに安倍首相が辞任会見で語った言葉がこれだ。
小西議員は先の質問主意書の中で、「私はかつて総務省に勤務し、いわゆる課長補佐職で退官するまで国会答弁の作成業務に多々従事したところであるが、第二次安倍政権以前の政府において慣行的にご飯論法を講じた国会答弁を行うような総理や閣僚は一切存在せず、また、そのような国会答弁が省庁において作成されることもなかったと認識している」と述べている。過去との比較はここでは措くが、論理をまげて敢えて質問に答えないための「ご飯論法」の答弁書を日々、長時間労働の中で作成するという作業は、心身をむしばむものであるはずだ。
野党はしばしば、官僚に答弁書作成のための深夜にわたる長時間労働の負荷をかけていると批判される。しかし、そのように
批判する側は、そうして作成される答弁書が政権を無理して守るための論点ずらしの「ご飯論法」に満ちていることには目を向けない。
政権の私物化の尻ぬぐいのための答弁書作成や、野党議員の
重要な指摘を受けとめずにかわすことだけが目的化した答弁書作成に官僚が追われ、国会で首相や大臣がそうやって用意された答弁書を棒読みして審議時間を食いつぶそうとする、そんな事態はもう終わりにすべきだ。
官僚は、そのような「ご飯論法」の答弁書作成になぜ抵抗できないのか。どのような気持ちでそのような答弁書を書いているのか。官僚の方々は労働組合などを通して問題意識を共有してほしいし、記者の方々もそこに切り込んでいただきたい。そして私たちは、新しい政権がそのような「ご飯論法」答弁を繰り返さないように、厳しい目で監視を続けるべきだ。
(注1)
質問主意書について、
参議院ホームページには次のように解説がある。
”国会議員は、国会開会中、議長を経由して内閣に対し文書で質問することができます。この文書を「質問主意書」と言います。質問しようとする議員は、質問内容を分かりやすくまとめた質問主意書を作り、議長に提出して承認を得る必要があります(国会法第74条)。
議長の承認を受けた質問主意書は、内閣に転送され、内閣は質問主意書を受け取った日から7日以内に答弁しなければなりません。7日以内に答弁できない場合は、その理由と答弁できる期限が議長に通知されます(国会法第75条)。
内閣からの答弁は、原則として文書をもってなされ、これを「答弁書」と言います。答弁書は、各府省等で案文を作成し、内閣法制局の審査を経て閣議決定された後、議長に提出されます。”
(注2)
2017年5月23日に衆議院の逢坂誠二議員は「質問主意書への答弁作成に関する質問主意書」を提出し(第193国会質問第334号)、野党議員が「トンデモ質問」を乱発していると産経新聞が報じたことを受け、「政府は、野党の国会議員が質問主意書を提出することは、『政府への嫌がらせ』と認識したことはあるか」などの質問を行っている。これに対する答弁書の内容は、「個々の報道を前提としたお尋ねについて、政府としてお答えすることは差し控えたい」と、実質的な回答を拒否するものであった。(参照:
衆議院)
<文/上西充子>