安倍政権の延命を支えてきた不誠実答弁手法「ご飯論法」に今こそ訣別を

小西洋之議員の「ご飯論法」質問主意書と答弁書

 このように、加藤勝信厚生労働大臣だけでなく安倍首相も、厳密な問われ方をしても意図的に不誠実な形で論点をずらした答弁を繰り返してきた。「ご飯論法」だと指摘され、「ご飯論法」とは何かという説明を受けながらも、「ご飯論法」答弁をその後も平然と繰り返した。  そのことを踏まえて、2020年6月7日に小西洋之議員が提出した「ご飯論法」に関する質問主意書と、それに対する安倍首相の答弁書の内容をご確認いただきたい(注1)。この答弁書の内容そのものが「ご飯論法」に満ちていることに気づいていただけるだろうか。 ●小西洋之議員による質問主意書(2020年6月17日) 質問第188号 安倍総理らのいわゆるご飯論法による国会答弁についての認識に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第74条によって提出する。 令和2年6月17日 小西 洋之 参議院議長 山東 昭子 殿 安倍総理らのいわゆるご飯論法による国会答弁についての認識に関する質問主意書 一 安倍総理及び政府は、第二次安倍政権における安倍総理ら閣僚が国会答弁においていわゆる「ご飯論法」を講じているとの批判を受けていることを承知しているか。 二 国会答弁におけるいわゆる「ご飯論法」について、政府の認識を示されたい。 三 ご飯論法とは、野党議員の質問に真正面から答えず意図的に論点をずらして中身のある答弁を行うことを回避する(答弁拒否する)という政府答弁において講じられる論法であると承知している。  すなわち、「朝ご飯は食べたか」という質問を受けた際、「ご飯」を故意に狭い意味にとらえ、パンは食べたにもかかわらず「ご飯(白米)は食べていない」と答えるように、質問側の意図をあえて曲解し論点をずらし回答をはぐらかす手法であるなどとインターネット上でも紹介されているところである。  政府として、安倍総理ら閣僚がこうしたご飯論法を講じた国会答弁を行っているとの認識にあるか。 四 私はかつて総務省に勤務し、いわゆる課長補佐職で退官するまで国会答弁の作成業務に多々従事したところであるが、第二次安倍政権以前の政府において慣行的にご飯論法を講じた国会答弁を行うような総理や閣僚は一切存在せず、また、そのような国会答弁が省庁において作成されることもなかったと認識している。  政府は、安倍総理らを先頭にしたご飯論法の多用によって国会審議を妨害し、議院内閣制の下の国会による行政監視を妨害し、ひいては主権者国民への責任を裏切る行為を犯しているとの認識にあるか。政府の見解を示されたい。 ●安倍晋三首相による答弁書(2020年6月30日) 内閣参質201第188号 令和2年6月30日 内閣総理大臣 安倍 晋三 参議院議長 山東 昭子 殿 参議院議員小西洋之君提出安倍総理らのいわゆるご飯論法による国会答弁についての認識に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員小西洋之君提出安倍総理らのいわゆるご飯論法による国会答弁についての認識に関する質問に対する答弁書 一から四までについて  お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、御指摘の「ご飯論法」について国会審議において取り上げられたことは承知している。いずれにしても、政府としては、国会審議において真摯に説明することに努めており、「質問に真正面から答えず意図的に論点をずらして中身のある答弁を行うことを回避する」及び「国会審議を妨害し、議院内閣制の下の国会による行政監視を妨害し、ひいては主権者国民への責任を裏切る行為を犯している」との御指摘は当たらないものと考えている。

「ご飯論法」答弁書に見る「ご飯論法」ぶり

 いかがだろうか。小西議員の質問主意書における「ご飯論法」の説明と問題意識、問い方は極めて的確なものだ。できれば「朝ご飯」は「朝ごはん」と表記していただきたかったが、それ以外には筆者からは何も付け加えるべきことはない。そして、この質問主意書は、決して「トンデモ質問」や「政府への嫌がらせ」ではなく(注2)、国会審議における政府の答弁姿勢を本質的に問うものだ。  しかし、この質問主意書に対する答弁書は、「ご飯論法」に満ちた極めて不誠実なものだった。  まず冒頭から「お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが」という言葉。まるで小西議員の質問の仕方が悪いので趣旨が理解できないかのような言い方だ。趣旨を理解してしまうと誠実に答えなければならないため、趣旨が理解できていないかのように装っているのだろう。このような不誠実さは、国会の議場での答弁でもしばしば見られるものだ。  続いて、「御指摘の『ご飯論法』について国会審議において取り上げられたことは承知している」とある。実際に国会で「ご飯論法」への言及があり、議事録に「御飯論法」という言葉が多数記録されている以上、「ご飯論法」という言葉を知らないと答弁すれば、それは虚偽答弁になってしまう。だから「国会審議において取り上げられたことは承知している」と答えているのだ。  しかしこれは、誠実な答弁ではない。なぜなら小西議員の質問は、国会審議において「ご飯論法」への言及があったことを認識しているか、と問うているものではなく、 ●安倍総理及び政府は、第二次安倍政権における安倍総理ら閣僚が国会答弁においていわゆる「ご飯論法」を講じているとの批判を受けていることを承知しているか。 ●政府として、安倍総理ら閣僚がこうしたご飯論法を講じた国会答弁を行っているとの認識にあるか。 ●政府は、安倍総理らを先頭にしたご飯論法の多用によって国会審議を妨害し、議院内閣制の下の国会による行政監視を妨害し、ひいては主権者国民への責任を裏切る行為を犯しているとの認識にあるか。 を問うものであったからだ。  にもかかわらず、答弁書はこの3つの問いのいずれに対しても答えていない。つまり、これはまさに、論点ずらしの不誠実答弁であり、この答弁じたいが「ご飯論法」を駆使して書かれているのだ。  そして、それに続く言葉が「いずれにしても」である。「いずれにしても」とは、質問に真摯に向き合わずに、こちらの言いたいことだけを言うときに国会答弁や記者会見の場で多用される言い回しだ。「いずれにしても」のあとにもっともらしいことを語ることによって、誠実に答えているかのように装う手法だ。  さらに、「政府としては、国会審議において真摯に説明することに努めており」という表現が続く。「真摯に」とあるが「説明」という表現が用いられていることに注意されたい。国会審議を見ているとわかるが、安倍首相が行う「説明」とは、自分が用意した答弁書を繰り返し読み上げることであって、質問にかみ合った「回答」を行うことではない。 「野党議員の質問に真正面から答えず意図的に論点をずらして中身のある答弁を行うことを回避する」論法が講じられていることが問われているのに、そのような論法を講じているわけではないと否定するでもなく、「真摯に説明することに努めており」と答える。これもやはり、質問に真摯に答えていない「ご飯論法」だ。  その上で、「『質問に真正面から答えず意図的に論点をずらして中身のある答弁を行うことを回避する』及び『国会審議を妨害し、議院内閣制の下の国会による行政監視を妨害し、ひいては主権者国民への責任を裏切る行為を犯している』との御指摘は当たらないものと考えている」と回答されているが、その前の部分の答弁が論点ずらしの「ご飯論法」に満ちている以上、「御指摘は当たらない」といっても、それはそう主張しているだけで、何ら論拠は示されていない。単に断定して見せているだけだ。
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官僚はいつまで政府の不誠実答弁に加担するのか
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