知らぬ間に私たちを縛る「呪いの言葉」。抗う術はオンラインでも身に付けられる

Zoomを使ってオンラインでやるには

 現在は一か所に集まってグルーワークを実施することは新型コロナウイルス感染症の関係でなかなか難しい。そういう中で私たちが今回実施したのは、zoomを使った方式だった。  筆者が当初考えたのは、各自が「切り返し方」をホワイトボードや紙に書いて、zoomの画面で掲げる方式だ。下記の映像では中央上部の筆者が「お題」として「(批判するなら)お前がやってみろ」という「呪いの言葉」をホワイトボードに掲げているが、それに対して各自が「切り返し方」を考え、同様にホワイトボードや紙にその切り返し方を各自が書き込んで、それぞれzoomの画面に向かって掲げて発表しあう方式だ。
ZOOMを使う

ZOOMを使えばオンラインでもできる

 このやり方だと、対面のグループワークに近い形でワークショップが行える。互いの表情も見えるので、コメントもしやすい。  しかし今回は、miro(ミロ)というオンラインホワイトボードの付箋機能を使って結果を共有した。今回の企画では、事前に各参加者に考えてもらった4つの「お題」(「若いうちの苦労は買ってでもしろ」「前例がない」「仕事に家庭を持ち込むな」「早く孫の顔が見たい」)と、その場で、即興で考えてもらった4つの「お題」(「(抗議に対し)気にし過ぎだよ」「あとで後悔するよ?」「(批判するなら)お前がやってみろ」「自己責任でしょ」)に挑戦してもらったのだが、即興課題については、各自が考えた切り返し方をzoomのコメント機能で裏方担当の飯田に送り、飯田がそれをmiroの付箋ツールに書き込んで画面共有し、それについて各自がコメントするという形を取った(下記を参照。白紙の付箋2枚は、「パス」した人の分)。
画面共有

オンラインホワイトボード「miro」の付箋ツールに書き込んで画面共有

 実際の様子はぜひ、映像で確認していただきたいのだが、この付箋ツールを使うと、付箋の位置や大きさを自在に変えることができ、「これは良いね」という切り返し方に対して星マークを付けることもできる。下記は「あとで後悔するよ」という「呪いの言葉」に対して、「後悔したら、フォローよろしく♡」という「切り返し」に評価の星マークがたくさんついている様子だ。
評価の星マークがたくさんついている様子

評価の星マークがたくさんついている様子

 似たような「切り返し方」を近くに集めて、こういう「切り返し方」はこういうパターンだね、とグルーピングすることもできる。下記は、「自己責任でしょ」という「呪いの言葉」に対して、「そういうこと言ってると、誰からも助けてもらえなくなりますよ?」と「そうだとして、助けないという理由はなにひとつないですよ。やめましょう、その言い方。自分の首を絞めるだけだ」という2つの切り返し方に、相手に対する「優しさ」という共通点を見出してラベルを貼ってみたものだ。
「優しさ」という共通点でグルーピングし、ラベルを貼った様子

「優しさ」という共通点でグルーピングし、ラベルを貼った様子

 また今回は、誰が書いた「切り返し方」なのかはわからない形にして付箋で表示した。そのため、各自がボードに掲げる場合に比べ、遠慮なくコメントしやすかった、という利点もあっただろう。  他方で、参加者各自の顔が見えないため、表情を見ながらコメントすることが難しく、コメントがあっても誰のコメントか、すぐには分からない場合もあった。今回は特に、参加者相互に事前の打ち合わせで顔を合わせておらず初対面の関係である人もいたため、コメントがしにくいというデメリットがあったように思う。  参加者の顔が見える形で実施するか、結果を上記のように画面共有した形で意見交換を行うか、このあたりはいろいろ工夫してみていただきたい。  なお、miroを使わなくても、各自がzoomのコメント機能でファシリテーターに「切り返し方」を送り、ファシリテーターがそれを見てパワーポイント画面などに各自の結果を書きこんで画面共有で見せる、という方法も可能だ。

終わりに

 今回のワークショップでは「呪いの言葉」の解説と事前課題の結果の共有、即興課題の結果の共有で、あわせて1時間ほどだった。けれどもこれは、事前の打ち合わせを経たうえで実施したものであり、事前課題についてもあらかじめ考えてもらっていたから1時間ほどでできたものであって、実際にまっさらな状態でワークショップをやってみるには、その2倍、3倍の時間をかける必要があるだろう。自分たちで「呪いの言葉」を出し合ってそれについての「切り返し方」も考えてみるなら、なおさらだ。  また、初対面の人同士が顔を合わせる場合には、アイスブレイク的なものもワークショップの冒頭に入れる方がよいだろう(ただし、嫌な記憶を誘発してしまわないような配慮が必要だ)。  著書『呪いの言葉の解きかた』では、労働とジェンダー、政治をめぐる「呪いの言葉」を取り上げたのちに、「呪いの言葉」とは逆に、相手に力を与え、力を引き出し、主体的な言動を促すエンパワーメント(empowerment)の言葉を「灯火(ともしび)の言葉」として紹介した。それは「期待の言葉」とは異なり、相手のおこないに対して肯定的なフィードバックを丁寧に言葉にして返すものだということを、具体例と共に紹介した。今回のワークショップでも、「期待の言葉」から「期待」の「成分」を抜いて、それを「灯火の言葉」に変換してみることを一緒にやってみた。  さらに、著書では、みずからの身体から湧き出て、みずからの生き方を肯定する言葉を「湧き水の言葉」と名づけた。今回のワークショップでは、自分にとっての「灯火の言葉」や「湧き水の言葉」を、参加者の方にエピソードとして紹介していただく場面も設けた。  ここでは省略したが、これらの部分も、映像をご覧いただき、ワークショップに取り入れることができれば取り入れていただければと思う。  最後に皆さん自身でワークショップを行う場合に向けて、「呪いの言葉」の「お題」の例を8つ、示しておきたい。皆さんなら、どういう「切り返し」を考えるだろうか。 ● 逃げ癖をつけちゃダメ ● 社会人になったら通用しないぞ ● 男のくせに泣くな ● お母さんでしょ ● 今さら遅い ● みんな我慢しているんだから ● だから言ったでしょ ● あなたのためを思って言っているのよ <文/上西充子>
Twitter ID:@mu0283 うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。また、『日本を壊した安倍政権』に共著者として参加、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆している(ともに扶桑社)。単著『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)ともに好評発売中。本サイト連載をまとめた新書『政治と報道 報道不信の根源』(扶桑社新書)も好評発売中
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