差別は無効化され、ファシズムは飼いならせない。米ドラマ「プロット・アゲンスト・アメリカ」をいま観るべき理由
AmazonプライムのスターチャンネルEXで配信されている、『プロット・アゲンスト・アメリカ』は、フィリップ・ロスの歴史改変小説を原作とする全6話のドラマシリーズだ。
1940年のアメリカ大統領選で、共和党は正史のウェンデル・L・ウィルキーではなく、大西洋単独無着陸飛行で知られる飛行士チャールズ・リンドバーグを候補者とする。リンドバーグは親ナチスで、大戦への介入に消極的だったが、その彼が現役大統領のルーズベルトを破って当選してしまう。リンドバーグ政権の誕生によって、アメリカに住むユダヤ人たちの運命は翻弄されていく――。
とくに注意せずドラマを観ていてもわかることなのだが、この物語は、単なる歴史のifを描いたものではなく、現在のアメリカの政治状況を鏡のように映し出している。
原作小説は2004年、ブッシュ政権の時代に執筆された。しかしドラマ版では、これが2020年、トランプ政権下でのドラマであることがはっきり意識されている。映画『ジョーカー』は、その舞台設定が1981年であるにもかかわらず、貧困と疎外状況に置かれた人々と、彼らが暴動に至るまでの描かれ方は、現代アメリカのそれであった。同様に、このドラマで大統領選挙の速報をラジオで聴くユダヤ人たちの、最初は余裕だった表情がどんどん曇っていく様子は、2016年の大統領選挙の再現に他ならない。
リンドバーグという人物の造型も、現代のポピュリズム政治家そのままだ。国民的人気のある有名人だが政治は素人で、周囲からバカだとみなされている。選挙運動も、自身の象徴である飛行機で国中を飛び回りながら、「リンドバーグか戦争か」というワンフレーズ・ポリティクスを繰り返すのだ。
史実の候補者ウィルキーは、ルーズベルト以上の参戦論者であった。それを避けて反戦論のリンドバーグを候補者にしたことに、このドラマの巧妙さがある。戦争を回避したいという大衆心理は、ナチス・ドイツが相手でさえ否定されるべきものではない。戦争を欲する大衆心理が煽られるよりもはるかにマシだ。しかし、そのような大衆心理への寄り添いによって、リンドバーグがもつ反ユダヤ主義や親ナチス、ファッショ的心情は誰の目にも明らかであるはずなのに、なかったことにされてしまうのだ。
リンドバーグは、選挙演説においてはっきりと反ユダヤ主義的な陰謀論を唱える。だがそれは彼の当選を阻まない。彼の支持者にとっては、それは彼が無知であることによる「誤解」であり、「真意」ではなかったとされ、「会えばいい人」のような根拠のない人柄への擁護によって中和されていく。
このような演出は、現題でも容易におこりうる問題として極めてリアルだ。最近の例をあげよう。7月3日、れいわ新撰組の参議院議員候補者であった大西つねきは、「命の選別をしなければならない」などと、自身の優生思想を明らかにした。これを受けて党は彼を除籍処分にしたが、それでも「大西氏の真意は異なるのだ」「学びの途中なのだ」などと、彼を擁護する声は支持者を中心にいまだに大きい。
また、同月5日に行われた都知事選では、排外主義団体である「在日特権を許さない市民の会」元会長の桜井誠が18万票を獲得した。またこの選挙で300万以上の票を獲得して当選した小池百合子は、都知事として慣例となっていた関東大震災における在日コリアン虐殺に対する追悼文の送付を拒否し続けている。
マイノリティ・弱者にとって、国や地方、その他団体のリーダーが差別主義者かどうかは、文字通り生死を左右する重要な問題だ。しかしその争点は、マジョリティによっていともたやすく二次的な論点として後回しにされ、あるいは無理筋な擁護によって無効化されてしまうのだ。
現代との交錯
無効化された差別主義
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