講演1回300万円! 登録者数100万人超の自己啓発系YouTuber、鴨頭嘉人氏の思想的バックボーン

中小のワンマン社長に都合のいい理屈

 彼らの提唱する考えに「喜働(きどう)」、文字通り喜んで働くというものがある。一生懸命に働けばいい結果が出て、さらに仕事が任せられて、それを喜んですることで……というループがそれだ。  この「喜働」の考え方については、働き方改革についての鴨頭氏の講演が象徴的だ。これは、問題含みの働き方改革を超単純に「休みを増やそう、労働時間を減らそう」とする政策と断じ(もしそうならどれだけいいだろう)、さらにサクッとその考えを否定する鴨頭氏の雄姿を見ることができる。 ”「休日を増やそう、残業を減らそう。それ働き方改革になってます?」 (中略) 「あんなもん、働き方改革になってませんから。良くなってますか? 何が良くなっているんですか? 問題を増やしているだけじゃないですか。いやそもそも前提がずれてますよ」 「働き方改革というのは、働く時間を減らせば日本人は幸せになるって言ってるんですよ。」 (中略) 「ふざけんな。そんなことで日本人は幸せにならない。本当の働き方改革とは、65%の時間(引用者注・65%は一日の労働時間の意味)『超楽しいんですけど』ってなることじゃないの?」 「じゃあ政府はなんであのような全く無意味な活動になってしまっているかわかりますか? それは、今働いている65%を充実させる力が政府にはないからですよ。あたりまえじゃないですか」 「今働いている65%の時間を『超楽しい!』って変えられるのは誰ですか。僕です。(参加者笑い)……僕以外にはできないんです。そう、あなた以外には」” (強調・引用者久保内による)  問題含みの「働き方改革」の内情や文脈を一切無視して「休日を増やそう・残業を減らそう」と単純化。さらに政治のレイヤーの話を間髪入れずに自分の心の問題として突きつける。鴨頭氏のオハコの論理展開だ。  どんだけ中小のワンマン社長に都合のいい理屈なのかと感心するほかない。このいい話を持ち帰った社長は社員にどんな話を聞かせてくれるのでしょうか。想像すると「超楽しい!」ってなるので、こんな文章書いている自分の働き方改革は大成功です。

「自分の心の問題」にすべてを片付けるヤバさ

 このように、環境を変えるより自分の心を変えることで、状況が違うように見えたり活路が見いだせるというのは、処世訓としては「そういうこともあるよね」という話ですが、それですべてが説明できるはずがない。  例えば、現在アメリカで盛り上がっているブラックライブズマター運動については、この視点から何か建設的なことが言えるのか。構造的な差別についてはどうか。構造的な差別もすべて自分の心の問題で信じればなくなるのか?   そして、鴨頭流の倫理法人会の自己啓発は、自分の気持ちを前向きにさせるのと同時に、中小企業のボスの気持ちも前向きにして、愉快な活力朝礼を社員たちに善意で強いることになるのではないか? と感じる。  鴨頭流の生き方と、倫理法人会はそれ自体は宗教ではない。宗教ではないが、科学でもない。”何となくイイ話”だ。宗教は人生すべてを救う説明原理だが、倫理法人会がいう幸せは、「早起きしたら気分がいい」レベルの救いであり、人生の問題に答えるものにはなり得ないと自分は思う。そして、戦前の修身の現代的復活であり、おっさんノスタルジーの結晶でもあると思う。  フレッシュな社会人は、これを頭から信じてネギをしょった鴨になるのではなく、そんなイイ話を振りかざして従わせようとしてくる中小企業のボスたちのいなし方や、見限り方、ヤバさを嗅ぎ取る教材として使うというのが鴨頭氏の正しい使い方なのではないか。そう自分は考えます。  ってことで、今日はこの辺で。きっと鴨頭氏は、批判は無視して毎日の仕事を超楽しい!と過ごすために全力で無視してくださると信じています。 <文/久保内信行>
編集・ライター。編プロタブロイド代表取締役。デジタル系からオタク系コラム、経済にコピーライティング全般。著書多数。筆者のnote、Twitterアカウントは@tabloid
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