講演1回300万円! 登録者数100万人超の自己啓発系YouTuber、鴨頭嘉人氏の思想的バックボーン

「7つの習慣」も、全部修身の戦前道徳の授業や!

 動画を見るうちに気づいたのは、どんなビジネス書の用語を出しても即座に鴨頭流にアレンジするところ。例えばスティーブン・R・コヴィー 著『完訳 7つの習慣~人格主義の回復~』を引き合いに出すときも、人格主義の回復だとかまあそんな感じの内容にはほぼ触れず、内容の要約をさらに鴨頭流に一行にアレンジ。「習慣が人間を作る」と超訳してしまえば、先ほどのステップで、自分の心の持ちようの問題になってしまう。 「引き寄せの法則」も、サクッと『いいね!を実践すること』と翻訳されてしまう。外国人がどんなバックボーンで話しているなんかどうでもいい! 今すぐ実践できてイイ話であり、聴衆の心をつかむことが重要だと言わんばかりだ。

鴨頭嘉人のバックボーン・倫理研究所の思想とは?

 では、思想のバックボーンの話をほぼしない鴨頭氏の講演のかわりに、筆者が彼の思想の背景について解説を加えてみよう。  まず、あらゆることを個人の心の問題に落とし込む「自分→夫婦→(略)→社会」というステップ式の社会観。これは、日本の江戸幕府を支えた林羅山らによる朱子学的道徳で、明治に入ってからは教育勅語に姿を変え、修身(道徳の前身)の基礎になったものから引き出されたものだろう。イギリスのジェントルマンやフランスのシトワイヤンに対応するような、良き日本人像として設定された道徳観念だ。  教育勅語には以下のような文面がある。 ”(前略)爾臣民父母に孝に、兄弟に友に、夫婦相和し、朋友相信じ、恭倹己を持し、博愛衆に及ぼし、学を修め、業を習ひ、以て知能を啓発し、徳器を成就し、進んで公益を広め、世務を開き、常に国憲を重んじ、国法に遵ひ、(後略)”  国民は父母に孝行し、兄弟仲良くして、夫婦仲睦まじく、友を信じ、行動は慎んで、他人にやさしく、学問を収めて仕事を習い…… と言った文面で、明確にステップ式の社会構造を前提に書かれている。  違う点は、修身や前提になった朱子学的儒教的道徳では、それぞれの社会ステップにおいて求められる徳の形や重要性が違う。「仁・義・礼・智・信」からなる「五常」の徳目や、「五倫」と呼ばれる「父子・君臣・夫婦・長幼・朋友」の関係を維持するよう努める内容なんかがそれだ。教育勅語は、それに絶対の存在である天皇を付け加えた形になっている。  鴨頭氏、および所属する倫理法人会の母体である倫理研究所では丸山敏秋「純粋倫理入門」を読む限り、礼記の大学にある「修身斉家治国平天下」のみを抽出して、この社会構造観にあてはめているように見える。  「修身斉家治国平天下」とは、「天下を治めるにはまず自分の行いを正しくして、家庭をととのえて、次に国家を治め、最後に天下を治めるべきである」という言葉。この言葉を逆にたどると、天下を治めたいなら、社会的に成功したいなら、自分の行いを正さなければならないとなり、鴨頭氏の言うこととピッタリ符合する。  このように単純化すれば、「修身」を極めるだけで天下まで一貫して語れてしまう!! それが倫理研究所の「純粋倫理」の核だと自分は考える。もちろん、筆者は(煙草を吸った人間はドラッグに目覚め、大麻に手を出し、そして覚せい剤に興味を持ち始める……とか学校のポスターに貼ってあったよね)とかぼんやり考えるように、それを信じるに足るとは思っていないけれど。
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失敗するのは自分の心のせい、成功した人は心が素晴らしい人……?
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