16年経っても消えぬデマが示す「事実に対する誠意と倫理観」が揺らぐ日本社会の現実

日本社会の「事実に対する誠意と倫理観」が揺らいでいる

 罵詈雑言を浴びせる誹謗は、たとえ見ないようにしたところで一度でも目にすれば記憶に残り続け、精神を蝕む。気にしないようにするというのは当事者にとっては難しいことだ。  それでも時間がたてば誹謗されるという現象そのものは沈静化していくこともあるだろう。だが、あたかも虚偽ではない事実であるかのように広められた中傷は、無視しても反論しても消えることはない。  世の中のものごとは、必ずしも事実関係をすべて明らかにできるわけではない。それでも、明らかになっている事実関係を積み重ねることで推論として浮かび上がるものもある。それを論じることができなくなってしまえば、非常に限られた言論しか認められなくなってしまう。  だからこそ虚偽の事実であったり、事実誤認であったりすることがないよう、事実の確認に手を尽くすべきであり、根拠不明であるならばただちに削除・訂正し、すでに流布してしまったデマの解消に全力で取り組むべきだ。  言論の自由を守るためにも、既存メディアを含む日本社会の「事実に対する誠意と倫理観」が揺らいでいる現状を問い直す必要があるのではないか。 <文・写真/安田純平>
ジャーナリスト。1974年埼玉県入間市生まれ。一橋大学社会学部卒業後、信濃毎日新聞に入社。在職中に休暇をとりアフガニスタンやイラク等の取材を行う。2003年に退社、フリージャーナリストとして中東や東南アジア、東日本震災などを取材。2015年6月、シリア取材のためトルコ南部からシリア北西部のイドリブ県に入ったところで武装勢力に拘束され、40か月間シリア国内を転々としながら監禁され続け、2018年10月に解放された。著書に『シリア拘束 安田純平の40か月』(扶桑社)、『ルポ 戦場出稼ぎ労働者』『自己検証・危険地報道』(ともに集英社新書)など
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シリア拘束 安田純平の40か月

2015年6月に取材のためシリアに入国し、武装勢力に40か月間拘束され2018年10月に解放されたフリージャーナリスト・安田純平。帰国後の11月2日、日本記者クラブ2時間40分にわたる会見を行い、拘束から解放までの体験を事細かに語った。その会見と質疑応答を全文収録。また、本人によるキーワード解説を加え、年表や地図、写真なども加え、さらにわかりやすく説明。巻末の独占インタビューでは、会見後に沸き起こった疑問点にも答える