コロナ禍の中、安倍政権が火事場泥棒的に進めた「種苗法改正」。今国会は見送りが決まったが、もし通れば日本の食と農業が壊滅する<山田正彦氏>

※2020年5月26日追記 【お詫びと訂正】  本記事は、『月刊日本』(2020年6月号)に掲載した山田正彦・元農水大臣のインタビュー「種苗法改正 日本の農業が壊滅する」を転載したものです。当初の文中では、㈲横田農場が農水省の検討会に参加したことを取り上げ、「同社は農水省の検討会で『これでは経営が立ちいかなくなる』と訴えていました。」と記述しました。しかし、これは取材者が事実関係を誤解して記述したものであり、横田農場がそのような発言をした事実はございませんでした。よって、該当部分と横田農場に関連する記述は削除いたしました。  ㈲横田農場の代表取締役である横田修一様、元農水相・山田正彦様、及び双方の御関係者様にご迷惑をおかけしました。謹んでお詫び申し上げます。 記事提供元/『月刊日本』編集部 配信/HBOL編集部
稲刈

ばりろく / PIXTA(ピクスタ)

検察庁法だけじゃない! 安倍政権の火事場泥棒的行為

 コロナ禍の日本で安倍政権が火事場泥棒的に進めようとしていたのは検察庁法改正だけではない。「スーパーシティ法案」(参照:朝日新聞)や「国民投票法改正」や「種苗法改正」など、我が国の人と暮らしを脅かす法案をどさくさに紛れて成立させようとしていた。幸いなことに、柴咲コウさんのTweetなども影響し、見送りが濃厚となったが、あくまでも今国会だけの話。まだ油断できない状況だ。  果たして「種苗法改正」の問題点とは何なのか? 『月刊日本 6月号』では、『売り渡される食の安全』(角川新書)などの著書がある元農林水産大臣の弁護士、山田正彦氏へのインタビューを行っている。  いま、コロナ禍のどさくさに紛れて安倍政権が何を破壊しようとしているのか。ぜひご一読いただきたい。
売り渡される食の安全書影

売り渡される食の安全』(角川新書)

日本のタネが企業に私物化される

―― 種子法廃止と同様、日本農業の根幹を変える種苗法改正案が提出され、今国会で成立する見通しです。 山田正彦氏(以下、山田): 種子法廃止はいわば「外堀」を埋めただけで、「本丸」は種苗法改正だったのです。これにより、海外企業によるタネの支配、ひいては農業支配への道が開かれます。  ポイントは、タネを開発した「育成者の権利」(育成者権)の保護を強化するという点です。1991年にUPOV(植物の新品種の保護に関する国際条約)が改正されてから、知的財産の一つとして「育成者権」が認められるようになりました。作曲家は自分の作った楽曲の著作権を持っていますが、それと同じように育成者は自分の作り出した品種の育成者権を持っているということです。  一方、日本が2013年に加入したITPGR(食糧・農業植物遺伝子資源条約)では「農民の権利」として、育てた作物に実ったタネを自分で採って植えるという自家採種・自家増殖の原則自由を認めています。  そのため、現行の種苗法では農水省が「登録品種」という枠組みで育成者権を保護していますが、それも含めて農家の自家採種は自由でした。ところが、今回の改正によって登録品種の自家採取は原則禁止になります。これに違反した場合は、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(農業生産法人は3億円以下の罰金)が課されます。さらに共謀罪の対象になります。  ここには大きな問題があります。現在、世界の種子市場は「バイエル・モンサント」、「ダウ・デュポン」、「シンジェンタ・中国科工集団」というグローバル企業3社が70%以上のシェアを寡占しています。彼らにとって農家の自家採取はビジネスの邪魔です。農家が自分でタネを採って植えていたら、自分たちのタネが売れないからです。そこで、モンサントなどは世界各国で「育成者権の保護」を名目に、自家採取禁止法案を推し進めてきたのです。種苗法改正は世界中で批判された「モンサント法」そのものなのです。  自家採取禁止は30年前に中南米で相次いで成立しましたが、農民たちが暴動を起こしたため、その後どんどん廃止されました。しかし今、日本は周回遅れで同じ失敗を繰り返そうとしているのです。
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農家が育てて得た種を植えただけで著作権侵害に!?
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月刊日本2020年6月号

【特集1】日本は「身分社会」になった
法政大学教授・水野和夫
評論家・佐高 信
帝京大学教授・小山俊樹

【特集2】新・「空気」の研究―コロナが暴いた日本の病理
著述家・物江 潤
ラッパー・Kダブシャイン
著述家・菅野 完

【特集3】検察庁法改正―これで国が壊れる!
衆議院議員・山尾志桜里
ノンフィクションライター・森 功