安倍政権による検察庁法改正問題は立法・行政・司法の三権すべてを破壊する国家の危機<山尾志桜里氏>

検察庁

キャプテンフック / PIXTA(ピクスタ)

検察庁法改正を許せば、日本という国は壊れる

 新型コロナによる自粛生活などで国民が犠牲を強いられる中、火事場泥棒的に成立させられそうになった検察庁法改正案は、野党の根強い追及に加えて、多くの国民が声を上げ、目に見える支持率低下として安倍政権に思い知らせることができた結果、今国会での成立見送りとなった。  しかもその後、5月21日には「週刊文春」が報じた「黒川弘務東京高検検事長 ステイホーム週間中に記者宅で“3密”『接待賭けマージャン』」という記事を受けて、黒川検事長が辞任を表明するという意外な結末を迎えた。  しかし、この辞任で幕引きにしてはいけない。この検察庁法改正案の考えや、議論の進め方の本質的な問題は何一つ解決していないからだ。法解釈に基づき、さらに過去の政府見解すらも口頭決裁で180度覆すという無茶苦茶なことをしたことは揺るがない事実だ。こうした無茶苦茶を許さないためには、国民が厳しく「1月の閣議決定撤回」に至るまで声を上げていく必要がある。  『月刊日本 6月号』では、「検察庁法改正 これで国が壊れる」と題する特集を銘打ち、元検察官であり『立憲的改憲 ──憲法をリベラルに考える7つの対論』 (ちくま新書)という著書もある山尾志桜里議員(無所属)に、今回の検察法改正における問題点を明らかにしている。是非ご覧いただきたい。

立法・行政・司法の三権すべてが破壊される

―― 安倍政権は閣議決定で黒川弘務・東京高検検事長の定年延長を認めた後、検察庁法改正案を提出しました。 山尾志桜里議員(以下、山尾):これは国家の根幹を揺るがす問題です。まず安倍政権が黒川氏の定年延長を閣議決定したことで、同氏が検事総長になる可能性が開かれました。しかし時の政権が法を曲げて「準司法機関」である検察の人事に介入すれば、検察の独立と中立が脅かされ、司法権の土台が崩れます。  また安倍政権は閣議決定の法的根拠が揺らぐと、国会で積み上げてきた法解釈を一方的に変更しました。しかも、法解釈を変更した時期を偽っている疑いが極めて強い。これは立法権に対する侵害です。  さらに安倍政権はこれらの問題を覆い隠すために官僚に虚偽答弁を強制しています。その結果、各省庁の答弁が支離滅裂で行政機構全体が機能不全に陥りつつある。行政権を劣化させています。  安倍政権はこの問題を通じて、立法・行政・司法いずれの権能をも毀損しているのです。三権全てを毀損するとは、つまり国家を毀損するということです。このままでは法治国家の原則そのものが覆りかねない。「この政権から日本の国家を守らなければならない」と強く感じています。 ―― なぜ検察官の定年延長は問題なのですか。 山尾:まず安倍政権は閣議決定で黒川氏の定年延長を認めました。こうして「内閣は特例的に特定の検察官の定年を延長することができる」という既成事実を作ったあと、法改正でこれを制度化しようとしています。その狙いは、総理大臣すら逮捕・起訴できる検察の人事権を掌握することです。しかしその結果、検察が内閣に従属するようになれば、検察の独立と中立が失われ、ひいては三権分立や法の支配そのものが崩れかねません。  制度を変える場合は、本当に変える必要があるのかという「必要性」、そうだとしてもそれを変えることは許されるかという「許容性」が問われます。しかし安倍政権がやろうとしていることには必要性も許容性もありません。  そもそも検察には「検察官一体の原則」という前提があり、どの検察官であったとしても同じ判断・結論に至ることが求められています検察官の属人的判断で起訴・不起訴や求刑などの結論が変わってはいけないからです。つまり、検察官は「替えがきく存在」であること、「属人的な要素がない」ことこそが正義の前提なので、黒川氏だけ特別扱いして定年を延長する必要もありませんし、むしろ許容してはならないのです。 ―― なぜ安倍政権はこんなことをするのか。 山尾:安倍政権の思惑は二つあると思います。一つは、官邸への権力集中です。これまで安倍政権は異例の人事権を行使することで官邸に権力を集中させてきました。内閣人事局で各省庁の人事を支配しただけでなく、従来の慣例や通例を破って、日銀や内閣法制局、最高裁など独立的・中立的な組織の人事にも介入してきた。その総仕上げとして、検察人事にまで介入を強めたのではないかということです。  もう一つは、安倍政権に特有の論功行賞です。この政権には「ヤクザ的フェアネス」というか、自分のために泥をかぶった人間はかならず出世させるという特徴があります。それは森友問題で安倍総理の盾になった財務官僚が全員栄転していることからも見てとれます。  もちろん黒川氏が安倍総理のために泥をかぶった、具体的には政権の意向に従って特定の事件を捜査しなかったとか、特定の容疑者を不起訴にしたとか、そういう事実が明らかになっているわけではありません。ただ検察の人事制度をひっくり返し、違法の誹りを受けてまでも辞めさせたくないほど、安倍政権にとって黒川氏が特別な存在だったことだけは明らかだと思います。
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一貫して支離滅裂だった安倍政権の説明
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月刊日本2020年6月号

【特集1】日本は「身分社会」になった
法政大学教授・水野和夫
評論家・佐高 信
帝京大学教授・小山俊樹

【特集2】新・「空気」の研究―コロナが暴いた日本の病理
著述家・物江 潤
ラッパー・Kダブシャイン
著述家・菅野 完

【特集3】検察庁法改正―これで国が壊れる!
衆議院議員・山尾志桜里
ノンフィクションライター・森 功