迅速に「困っている市民に手を差し伸べる」。注目を集める明石市“暴言”市長のコロナ対策

「支給」よりも、はるかに早く届く「融資」で支援

 緊急支援策の柱は何と言っても「個人商店に、すぐに100万円」。これも「すぐに」というのが重要だ。だが「融資」だから、いずれは返済する必要がある。 ――「すぐに100万円」は素晴らしいんやけど、知り合いの呑み屋の大将に話したら、最初は「おっ」て言ったけど、よく見て「なんや、貸し付けか」と言ってたで。なんで「支給」にしなかったん? 泉:それ、よう言われるんやけどな。結論からいくと、支給より融資がはるかに早いんや。税金でやることやから、支給やと条件とか審査とかいろいろあって、結局すぐには出せない。でもコロナでお金が必要な人は、今すぐ払わなあかん家賃がない。今すぐお金がほしい。となると融資なんやな。融資ならいずれ返済されるから、対象をぐっと広げることができるし、すぐ出せる。  実際、明石市の緊急支援金は申し込みから早ければ2日後には振り込まれる。貸し付けではあるが無利子・無担保で、返済は1年間据え置き。1年後から3年かけて返済すればよい。これなら確かに借りやすい。  対象となるのは、明石市内で店を借りて営業している個人店主。呑み屋やスナックなど夜の営業店も含まれる。家賃が融資の対象だから、家賃のかからない自前の店は含まれない。そして上限は月に50万円で、2か月分で100万円だ。これはなぜだろう? 泉:実際に商店街を回ったんやけど、何が困ってるって、家賃が払われへん、という声が多かった。家賃が払えなかったら店をたたむしかない。従業員も路頭に迷う。だから家賃を支援することにした。上限額はな、行政がやる以上どこかで線引きせなあかん。これもいろんなとこで聞いたんや。そしたら、明石市内のお店で家賃が50万円を超えるのは、ほとんど大手のチェーン店しかないことがわかった。だから上限を月50万円にすれば、明石市民が営業する個人商店や飲食店はほぼカバーできるんや。  市長自らの地道な“取材”による裏づけがあった。実によく考えてある。

「ひとり親家庭に5万円」と「個人商店に100万円」は表裏一体

 もう一つの柱が、「ひとり親家庭への5万円追加支給」だ。毎月支給される児童扶養手当に5万円を上乗せする。こちらは「支給」だから返済の必要はない。 ――これはいいよね。そもそも経済的に苦しいことの多いひとり親家庭に、四の五の言わずポンと5万円。これはどこから思いついたん? 泉:これは実は個人商店への支援と裏表なんや。特に夜の呑み屋やスナックでは、ひとり親家庭のお母さんがかなり働いている。商店街を回ると店の経営者が「うちらも大変やけど、従業員はもっと大変なんや」という声をよく聞いたんよ。営業自粛すれば売り上げがないから、給料もなかなか払えない。あげく店がつぶれたら、そこで働く人たちも収入を失って今以上に苦しくなる。それはあかん。「困っている市民に手を差し伸べる」というのは、こういう時のためにある言葉や。だからとにかく、経済的に弱い立場にあるひとり親家庭に現金を支給する。店がつぶれないように家賃を支援するのも、結局はひとり親家庭を支援することにもなる。そういう意味で表裏一体なんや。  行政の施策は、こういう発想のもとで進めてもらいたいものだ。
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「暴言」辞任からのカンバック
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