「リニア工事で大井川の水量が毎秒2トン減!?」をめぐり国交省vs.静岡県のバトル勃発

国交省の介入が始まり、立ち消えになった「3者協議会」

環境影響評価書

JR東海が作成した「環境影響評価書」には、リニア工事により大井川の水量が2トン減ることが記載されている

 すると昨年夏、この膠着状況を打開しようと国交省が乗り出してきた。県の事務方はこう振り返る。 「国交省は、JR東海と静岡県と国交省の3者が話し合う、新たな『3者協議会』を設けたいと提案しました。そして、行司役としてJR東海を指導したいというのです」 「3者協議会」は「連絡会議」とは別組織。筆者はこの件で2019年10月29日、連絡会議で常にJR東海と真正面から対峙して質問や意見を投げてきた難波喬司副知事にコメントを求めた。その回答は「連絡会議の有識者からも、国がJR東海を指導してほしいとの声がある。今後は、3者協議会と連絡会議との方向性を調整することで環境保全を図りたい」と、一定の期待感を示したものだった。  ただし、連絡会議に十数人いる有識者のなかでも、この3者協議会を疑問視する委員も複数いる。というよりも、そちらが多数派だ。その意見は「そもそも、リニア計画を事業認可した管轄部署である国交省に、客観的な行司ができるはずがない」というものだ。  その2日後の10月31日、3者協議会の設置は突然宙に浮いた。川勝知事の記者会見での発言をもとにした、『静岡経済新聞』(11月11日付)の「リニア騒動の真相21 正々堂々のちゃぶ台返し」という記事が以下のように報道している。  10月30日、3者協議会設置に向け、3者が話し合ってきた同意文書案がリークされ、それを静岡第一テレビが放映した。内容は、県はリニア着工には「JR東海が地元の理解を得ること」を必須条件としたのに、国交省鉄道局の文言は「理解を得ることに努める」との努力目標だったことだ。  これが漏れたことで、翌31日の3者会議で鉄道局は、難波副知事や担当局長を罵倒した。この、敬愛する部下への侮辱に川勝知事は「絶対に許さない!」と怒った。同時に国交省は、対等ではなく県より上の立場で3者協議を仕切ると判断した。だからこそ川勝知事は「環境省や農水省にも参加してもらう必要がある」と提案した。これを国交省が呑むはずもなく、3者協議会の設置は事実上なくなったのだ。

新たに立ち上げる「専門家会議」の中立性をどう確保するか

静岡県副知事

JR東海に真正面から意見・質問をぶつける難波喬司・静岡県副知事

 すると、国は新たな組織「専門家会議」を立ち上げることを提案してきた。目的は3者協議会と同じく、県とJR東海との膠着状態を打開することだ。これは専門家による話し合いの場であり、県や他省庁はオブザーバー参加となる。  県はこの提案に対して以下の5条件を付け、国交省がそれを呑んだことで、今年1月下旬に「専門家会議」の設立に同意することになる。 ①会議は公開する ②議題は47項目(県がJR東海に投げた質問) ③目的は国交省によるJR東海の指導 ④委員の選定は中立公正 ⑤座長は中立性を確認できる人  だが、この条件はどうやって担保されるのだろうか? 翌2020年2月10日、連絡会議が開催された。筆者は静岡市に赴き、会議後の囲み取材で難波副知事に「どうやって中立性のある委員や座長を選ぶのですか?」と質問した。  難波副知事はこう答えた。 「まず国が候補者を出す。それを県が適格者なのかの判断をすることになる。連絡会議の専門部会長は、推薦で入れたいです」
森宣夫環境対策室長

国交省鉄道局の森宣夫環境対策室長

 つまり「国には勝手に委員を選ばせない」と言ったのだ。この日、連絡会議には国交省鉄道局の森宣夫環境対策室長もオブザーバーで参加していたが、囲み取材での「専門家会議の委員の中立性をどう担保するのか」との質問には「委員がJR寄りでないようにする」と回答した。
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専門委員のメンバー選びで静岡県と国交省が対立
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