コロナ大流行の中で移民・難民350人を釈放! NGO が”反人権的”なイギリス内務省を動かした

強制送還も、弁護士との接見も行える状況ではない

ルディ

Bail for Immigration Detainees(BiD)のルディ。団体ではリサーチと政策提言を担当

 2つ目のポイントは「新型コロナの状況下において、収容所に移民・難民を収容しておくことは合法とは言えない」ということだ。入管収容所には、難民申請中の人、難民申請が不許可になった人、ビザが合法でないとして逮捕された人などが収容されている。収容の目的は「イギリスから強制送還される前に彼らが逃亡しないようにすること」である。  しかし、「新型コロナウイルスで飛行機はキャンセルされ、強制送還に係る内務省側のスタッフも足りない状況で、強制送還自体が運営できるわけがない」とルディは指摘する。  また入管被収容者には、本来はイギリスに滞在する権利が認められるべきであるのに、適切な対応が取られなかったために収容されているケースが多い。そのような人々は、通常であれば弁護士に相談することで収容所から出ることができる。  しかしコロナウイルスの状況下、弁護士は被収容者への直接の接見を禁じられていて、「弁護士が接見できない状況は、被収容者から適切な法的アドバイスを受ける権利を奪っている。この点でも、収容は合法でないと考えられる」と話す。

いったんウイルスが収容所に入ったら、被収容者の60%が即刻感染する!?

 3月14日には、内務大臣宛嘆願書に署名したうちの1つのNGO「Detention Action」が、政府を相手取り緊急の訴訟を起こしていることが判明した。世界的に人の移動が制限され、強制送還が困難な中での「収容」の合法性が疑われること、また収容施設内での新型コロナウイルス大流行の可能性が高く、死者や重篤者も発生する懸念もあるとして、全被収容者のチェックと釈放、そして新たな収容の停止を求めるものであった。  訴訟には、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の名誉教授のレポートがサポート資料として添付された。そこでは「収容所は新型ウイルスの爆発的な流行には“最適”な場所であり、いったん新型コロナウイルスが収容所に入ったならば、被収容者の60%が即刻感染する。よって、被収容者は可能であれば釈放されるべきだ」と警告と提案がなされている。  また被収容者に石鹸や消毒液が十分に支給されず、トイレやシャワーも多くの人によって共同で使われ、収容所内がひどい衛生状況であるとも指摘されている。  BiDのルディは、「司法審査で収容の違法性を問うことは、被収容者の釈放を求める1つの手段としてNGOがよく使う手法であるが、ここまで多くの被収容者を対象にした前例は、自分の知る限りない」と話す。
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裁判所は被収容者全員の釈放要求を却下
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