ある老舗ソフトの名称をTwitterがBAN。ネット時代に蔓延る「言葉の死刑の冤罪」について考える

OKサインの文脈 上書き問題

 去年のことだが、指で作るOKサインが、白人至上主義の印(WP = White Power を表すサイン)であるとして話題になった。フロリダ州にある「ユニバーサル・オーランド・リゾート」で、このサインを使って差別をおこなったとして、従業員が解雇されている(参照:南龍太氏のYahoo!ニュース個人ニューズウィーク日本版)。  反差別を訴えるユダヤ系団体「名誉毀損防止連盟(Anti-Defamation League、略称 ADL)」にも、このOKサインの情報が掲載されている。そこには、4ch発のデマが発祥だという情報がある。
 Okay Hand Gesture

ADLのWebsiteより

 このOKサインが White Power の隠語であるという文脈は、人工的に作り出された。元々は、ポリティカル・コレクトネスを過剰に求める風潮を皮肉るジョークだった。そのジョークを、匿名掲示板 4chan のユーザーたちが面白がり、真実として定着させようとした(参照:WIRED.jp)。その結果、OKサインが差別の象徴として、意味が上書きされてしまった。  短期間で発生して定着した意味だが、インターネットを通してグローバルに拡散した。そのため大きな影響が出ている。シカゴの高校では、2018年度の卒業アルバムを作り直すと発表した。OKサインをして写真に写っている生徒たちが、将来差別主義者として糾弾されないようするためだ(参照:ニューズウィーク日本版)。  一度でも悪い意味が付いた言葉やサインは、社会から洗浄されてしまう。その一例と言える。

「Asian」や「teen」がGoogle検索できなくなる

 2020年の2月の話題だが、iOS でペアレンタルコントロール機能を利用すると、「Asian」や「teen」が Google で検索できなくなるという現象が話題になった。ペアレンタルコントロール機能により、成人向けWebサイトへのアクセスが制限された。その結果、「Asian」や「teen」という言葉が禁止されたのだ(参照:Charlie Stiglerさんのツイート)。  なぜ Asian なのかは、成人向けWebサイトの検索で、よく使われている言葉だからだろう。世界最大のポルノサイトである Pornhub では、毎年統計情報を公開している(参照:Pornhub Insights)。このサイトでよく検索されている単語を、1位から順に掲載しよう。 1位 japanese 2位 hentai 3位 lesbian 4位 milf 5位 korean 6位 asian  teen は12位にランクインしている。機械的に単語と行動を結びつけた場合、こうしたトラブルが起きると推測できる。  同様の方法で、ある特定の国や民族の名称、身体的な特徴が、性的であるとしてネットから排除されたらどうなるだろうか。大きな問題になることは想像に難くない。  言葉の意味は、このように機械的に上書きされることもある。こうしたことは、今後も起き続けるだろう。
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グローバル時代の「言葉狩り」
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