伊方原発3号炉インシデントは何が起きていたのか? 公開情報から読み解く「正体」

放射線テレメトリー情報にみるインシデント当時の伊方発電所

 伊方発電所のインシデントは、すでに様々な報告がなされていますが、筆者は、1/26未明の時点で、愛媛県が公開する放射線テレメトリー(遠隔測定)・データをみて首をかしげていました。
愛媛県が公開する放射線テレメトリー情報

愛媛県が公開する放射線テレメトリー情報2020/01/26 04:09
これによって原子力発電所の状態はかなりの程度分かるが、福島核災害では、福島県内どころか関東・東北全域で数週間にわたって多くのの放射線テレメトリーが欠測となり、殆ど役に立たなかった。現在、全国の原子力・核施設テレメトリー情報公開システムに十分な信頼性と冗長性があるかは不明である(愛媛県原子力情報ホームページより

3号炉計数率(cpm )

3号炉計数率(cpm )2020/01/26 04:09:52
3号炉格納容器、補助建屋で15:30頃から22時まで欠測している。環境測定系の復旧に6時間以上を要していたことが分かる(愛媛県原子力情報ホームページより

3号炉放水口計数率(cps)

3号炉放水口計数率(cps) 2020/01/26 04:10:13
15:30-16:00に計数率が大きく減少している。これは余熱除去系(冷却系)を停止していたことを意味する。19時以降の計数率の増加は、降雨のためと思われる(愛媛県原子力情報ホームページより

1号炉計数率(cpm )

1号炉計数率(cpm )2020/01/26 04:10:33
1号炉格納容器、補助建屋で欠測は無い。従って外部電源が正常に切り替えられたことが分かる(愛媛県原子力情報ホームページより

3号炉東側MP線量率(nGy/h )

3号炉東側MP線量率(nGy/h )2020/01/26 03:59:25
やはり欠測は無い。
線量率の大きな変動(増加)は降雨のためである(愛媛県原子力情報ホームページより

 インシデント発生当時の伊方発電所内放射線テレメトリー情報を見ますと、3号炉建屋、補助建屋ではテレメトリーが欠測しており、電源を喪失していたことが分かります。復旧には6時間以上を要しており、外部電源が切り変えられなかったことにより3号炉の環境測定系などが止まっていたことが分かります。一方で、構内の屋外モニタリングポスト(MP)や1,2号炉の環境測定系には欠測がありません。  これらからも1,2号炉と発電所構内は、66kV平碆(ひらばえ)支線によって外部電源が維持されていたことが分かります。  3号炉放水口計数率が、3号炉外部電源喪失後に大きく数値を下げていますが、これは3号炉からの放水が止まるなどの影響があったことを示します。多くはトリチウムですが、原子力発電所からは僅かとは言え、管理下で空気中、海水中に放射性物質を捨てており13秒以内とはいえ瞬断し、多くの機器が止まった結果、放水をとめたものと思われます。  原子力発電所の構成機器は極めて多く、不意の瞬断などで機器が停止した場合、電源を再投入すればすぐに元通りに稼働するものではありません。少なくとも数時間程度の復旧時間を要し、そのためには多くの人手を要します。その間の時間をシステムの冗長性によって状況の悪化を食い止めます。スイッチ一発で何もかも動くというような一部の方々の夢想とは異なり格好はよくありませんが、この冗長性が原子力技術の基本中の基本と言えます。  3号炉放水口計数率には、そういった建屋内部で起きていることが反映されると言えます。従って3号炉に付帯する3号炉使用済み核燃料ピットの冷却も1時間程度(その後の報道では43分間)止まっていたことがこのテレメトリー情報から分かります。  現在のような定検中の伊方発電所内で、動力喪失などに際して最大のリスクを持つのは3号炉使用済み核燃料ピット(SFP)ですので、四国電力による初報にSFPの情報が無いことから、「これは一騒動起きるな」と筆者には予見できました。なにしろ福島核災害における合衆国による最悪想定は福島第一4号炉(1F-4)SFPの冷却喪失と溶融、それによる東日本全域のカスケード(連鎖)核災害であり、その場合4000万人を超える核災害難民の発生もあり得たのですが、これが避けられたのはただの偶然であったことは広く知られており、市民の関心がSFPに集まることは自明だからです。  筆者は、「またやっちまっているよ」と思いながらもその後の推移を見守ることにしました。

SFPで何が起きていたか

 一時的でも電力を喪失した原子力発電所では、必ず何かの温度が上がりはじめます。定検入り一ヶ月後の原子炉設備ですとそれはSFPとなります。  2020/01/26には、毎日新聞がSFPの温度上昇を報じました*。 〈*伊方原発、一時電源喪失で「定期検査」中断へ 原因調査へ2020/01/26 毎日新聞:“3号機のプールの温度は停電前(午後3時)の33.0度から、同5時に34.1度まで1.1度上昇した。2号機は0.2度の上昇だった。四電は「有意な変化ではない」としている。中央制御室の計器などは停電しなかった。”抜粋〉  その後、インシデントから12日経過した2020/02/06に、愛媛新聞が1面トップで3号炉SFPの冷却停止と温度上昇について報じました*。チョーデカデカの扱いで筆者はびっくりしました。 〈*1504体保管のプール 伊方3号、外部電源一時喪失 燃料冷却43分停止 2020/02/06愛媛新聞〉  SFPは商用軽水炉の大きな弱点で、原子炉が操業中の場合は、崩壊熱量が大きいために冷却を喪失すると条件によっては48〜72時間程度の余裕時間しかありません。とくに使用済MOXが多い場合は余裕時間が短くなります。  既述のように福島核災害ではいくつもの僥倖と言うほか無い偶然がなければ、1F-4のSFPを発端としたカスケード核災害によって日本は東日本の大部分を失っていました。  しかし、早期に人間により手を加えられれば、SFPはたいへん迅速に事態を人間の制御下に取り戻せます。加圧水型原子炉(PWR)の場合、SFPは操業中に立ち入りができない原子炉格納容器の中で無く、補助建屋内にありますので、極端な言い方をすれば人海戦術のバケツリレーで水を入れることすらできます。
標準的な国内PWRにおける使用済み核燃料ピットの位置

標準的な国内PWにおける使用済み核燃料ピットの位置
原子炉格納容器と一体化した原子炉建屋が生体遮蔽板を兼ねるために操業中の原子炉建屋=原子炉格納容器内には放射線のために人間が立ち入ることができない。
SFPは、原子炉格納容器・原子炉建屋の外にあるため、原子炉運転中、シビア・アクシデント(SA)の最中であっても人間が安全に接近できるし状態の随時観察ができる
伊方発電所3号機の安全対策について2015/08/06四国電力より

BWR Mark-1の模式図

BWR Mark-1の模式図
原子炉圧力容器(RPV)の大きさとPWRの原子炉容器の大きさはほぼ同じである。PWRの図と比較しても沸騰水型原子炉(BWR)の格納容器の小ささ(自由体積が約1/10)がわかる。生体遮蔽板は、原子炉建屋内にあり建屋内への操業中の立ち入りは可能である。SA時には、事態の進行に伴い立ち入り不可能となる。
BWRでは、SFPが原子炉建屋内の上層階にある。運転中に人間が立ち入ることはできるが、SA時には手出しできなくなる。福島核災害では、4号炉SFPは水の完全蒸発と核燃料溶融の危機にあったが、状態の把握と立ち入りができなかった。4号炉建屋爆発崩壊後にSFPの健在が自衛隊ヘリによる決死的偵察で確認された。その後4号炉SFPは倒壊の危機に陥ったが、たいへんに高い放射線量のもと最優先の人海戦術で補強が行われた。(image via Wilimedia Commons/Public Domain)

 従ってSFPの温度上昇は、逸脱状態と言えますが、制限温度(65℃)以下であるならば人間が敷地内で活動できる限りSFP起因のSAになる可能性は著しく低いです。  但し、報道および四国電力の報告 にあるように、43分間の冷却停止によって3号炉SFPが33℃から34.1℃に上昇しています。この温度上昇速度はかなり早く、制限温度65℃に到達するまでに概算で36時間未満、沸騰に至るまでに3日足らずしか余裕がありません。従って、伊方発電所の場合、操業中に火砕流によって所内に人が居なくなる様なことが起これば2日以内に原子炉が、3日以内に本命のSFPが溶融、崩壊することになります。一方で、所内に人が残留し活動を行うことができるならばSFPは、人間の関与が必要とは言え、冗長性の範囲内で制御、収束されます。  なお、2号炉SFPは元々の温度が室温並みに低いのですが、これは運転終了からすでに8年経過しているために崩壊熱量が十分に小さくなっており且つ、すべて二酸化ウラン燃料であるためです。
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インシデント発生から13日後、四国電力がやっと時系列情報を公開
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