「〇〇を食べれば、がんが治る」は誤り! 最新のがん治療の知られていない現実

延命治療はいま大きく変化している

薬イメージ――新たな治療チャンスという点について教えてください。 村上:まず、ある臓器に発生したがん細胞を放置すると、どんどん数が増えていき、最後にはその一部が血液の中に入り込んで別の臓器に到達し、またそこで新たにがん細胞が増えていき、最終的に人は全身的にがん細胞に蝕まれて衰弱し、死に至ります。  この状況の中でどのように治療が行われるかを極めてざっくり説明すると、早期に見つかった場合はがんを手術で取り除きます。また、この際に放射線治療を行うこともあります。ただし、早期発見できなかった場合、今お話ししたがん細胞があちこちの臓器に到達してそこで増えてしまいます。  これは一般的には転移と呼ばれる状態です。転移があるがんは、多くの場合、抗がん剤など薬のみで治療を行います。ちなみに本の中ではやや厳し目に、転移がある状態のがんが治療で消えることはほぼないと書きました。つまり転移があるがんの治療目的は治すことではなく、延命です。  この延命治療は、通常、診療ガイドラインで推奨されている抗がん剤で行います。ただ、この抗がん剤も一定期間使い続けると、効果がなくなります。現在では抗がん剤の種類も増えてきたので、ある抗がん剤が効かなくなると、別の抗がん剤に切り替えます。  ただ、最終的には切り替えの選択肢も尽き、あとはがんに伴う症状での苦痛をとる緩和ケアが行われ、最終的には亡くなってしまいます。  この延命治療がいま大きく変化しています。製薬企業各社による抗がん剤の開発が活発化しているからです。現在、厚生労働省による承認を目指した抗がん剤の新薬の臨床試験は軽く100件以上行われています。このような状況は過去にはなかったことです。  そうすると、延命治療での抗がん剤の選択肢が尽きるかもしれない段階で、新薬が承認されたり、承認前の臨床試験に参加することで選択肢が増えたりするケースも珍しくなくなりました。実際、それで命の残りがわずかになりつつあると思っていた人が、副作用には一定の注意を払う必要はあるものの、新薬を使うことで生活を続けられることもあるのです。

抗がん剤で延命している間に、より有効な薬が使えるようになることも

――でも抗がん剤は副作用がきつく、それで数か月寿命を延ばすだけのようなイメージしかありません。 村上:その認識はある意味は正しいですが、ある意味では誤解です。確かに抗がん剤は他の病気の薬と比べると、副作用は強いです。ですが、現在ではその副作用を和らげるための薬や治療法も登場しています。  また、そもそも数か月の延命に意味があるかについては、患者さん個々人の価値観や置かれた立場によっても違います。例えば40代でまだ子供が学齢期の人ならば、小学校の入学式や卒業式までは何とか生きたいという人もいます。その人にとって周囲が考える「たった数か月」も貴重な時間です。しかも、現在ではその間により有効な薬が使えるようになる可能性は高まっています。  例えばこんな事例があります。30代で肺がんが見つかり手術をしたものの、後に脳などに転移が見つかり、いろいろな治療を行っても行き詰ってしまった患者さんがいます。この患者さんは、最終的に承認されたばかりの前述のオプジーボにたどり着き、これを使った結果、診断から7年経ったいまも健在です。  これはあくまで標準治療を続けていたからこその結果です。標準治療を離れる人の中には、医療機関そのものから物理的に距離を置く人もいるので、その場合はこうした新薬の恩恵は巡ってこないということです。
次のページ 
生き延びる可能性は以前よりも高まっている
1
2
3
4
5