「〇〇を食べれば、がんが治る」は誤り! 最新のがん治療の知られていない現実

「〇〇を食べればがんが治る」ということはない

病院の待合室イメージ――珍妙な経験とは? 村上:実は提案を受けた時期は前述の本庶氏のノーベル賞受賞が決定した時期でした。その影響もあってか、日本国内では誰もが知っている有名企業の重役ばかりが集うクローズドな会で最新のがん治療についての講演を頼まれました。  講演は問題なく終了しましたが、終了後の会食の席でその重役の方々が「○○を食べるとがんが治るらしい」というような話を真面目にしているんです。  あらかじめ言っておくと、発症してしまったがんが、ある種の食品を食べることで消えることはありません。私は内心「それは違うんだけどな……」と思いつつも、錚々たる面々が相手ということもあり、何も言えずにほぼ黙ってしまいました。  本書のタイトルにもある「二人に一人ががんになる」時代なのに、一般人の間ではあまりにもがんに関する正確な情報が認知されていない現実を改めて思い知った瞬間でした。だからこそ、「蟷螂の斧」(とうろうのおの)かもしれないけど、私が書いてみようとも思ったわけです。

医師は、経験や勘に基づいてがんの治療をしているわけではない

――何が正確ながん情報であるかをまず知っておけば、不正確な情報に左右されにくいということですね。 村上:おっしゃる通りです。一般では少なからぬ人が、医師ががんの治療を行う際は、過去の経験や勘に基づいて治療していると思っています。しかし、これが違うのです。  とりわけがんのように時に命にかかわる病気の場合は、がんの専門家が集まる医学系学会が最新の研究成果を踏まえて、現在もっとも科学的な根拠があって優れている治療を体系的にまとめた「診療(治療)ガイドライン」を作成し、多くのがん専門医はこれに沿って治療を行います。ガイドラインに沿った治療は「標準治療」と呼ばれます。  がん三大治療と呼ばれる手術・放射線・抗がん剤も、どのような病状の時にどれを選択するかなど、ガイドラインでは事細かに記載しています。本の中ではその具体例なども挙げながら解説し、各治療法についても平易な言葉でまとめました。つまりこの一冊でがんとその治療の概略が理解できることを目指しています。
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