混迷する共通テスト、どこに責任があるのか<短期連載:狙われた大学入試―大学入学共通テストの問題点―>

「共通テストありき」で反対意見が封殺された会議

 私は、これまでの共通テストに関連する会議のほとんどを直接傍聴あるいは代理人を遣わし、その都度、会議の内容と各委員の立場を検証してきました。その中のいくつかを簡単に紹介しましょう。 【高大接続システム改革会議】  高大接続システム改革会議は、2014年12月の中央教育審議会の答申を受け、2015年3月から2016年の3月まで高大接続改革の実現に向けた具体的な方策を話し合う会議です。2016年3月に最終報告をし、その後具体的な検討・準備グループ等が設置されました。座長は安西祐一郎氏で当時の肩書は、独立行政法人日本学術振興会理事長、文部科学省顧問となっております。この会議の設置当時は、大学入学共通テストは「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」と呼ばれていました。  この中で、第8回の場面を紹介します。  第8回目は、2015年11月30日に14:00から16:00までの予定で開催されました。なお、このような会議はほとんどの場合は定時にピタリと終わる会議です。2つの議題があって、1.多面的な評価検討ワーキンググループにおける審議の進捗状況、2.「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」についてでした。このうち1つ目の議題にほとんど時間が費やされ、2.については20分程度しか残っておりませんでした。また、この会議が開かれる段階では、将来の共通テストありきの状況です。この中で五神真東京大学総長が次のような趣旨の発言をしました。 (a)50万人の試験にどのくらいの自由度をもたせた試験が許されるのだろうか。 (b)センター試験の中にも思考力を測るのに適した問題があったはずだ。それをまず検証することが大切だ。過去の良問をもう一度検討すべきだ。 (c)センター試験は思考力を見る方法も蓄積されているのでは? (d)記述式になるとマークシートと違い多様な解答があるので、「まちがっている」「あっている」の二者択一ではなく、その中間も存在する。それを評価しないようではまずい。  今の共通テストの混乱ぶりを見ると、このときの五神委員の意見はかなり的を得ていた指摘であることがわかります。この発言を冷ややかに見ていた(ように見える)安西座長の発言は、次のようなものでした。 「思考力」には「演繹的思考力」と「帰納的思考力」があり、今はどちらを見ているのかがわからない状態にある。また、今のセンター試験では、「この中に必ず正解がある」という仮説のもとに成り立っているが、それがあるかないかでは問題は大きく違うという発言があった。  一見するとかみ合っていないように見えますが、「だから、今のセンター試験はだめなんだ」と言いたかったのだと思います。時間もなかったこともあり、五神委員の意見はこのあと議論されることもなく終了しました。しかし、この段階で、「共通テストありき」に疑問をもつ声は出ていたわけで、委員の中には、この会議に参加できるだけで舞い上がっている人もいましたが、慎重な意見もあったのです。私が会議を傍聴していた印象では、その後の第9回~第11回の会議で問題例や採点方式の実現性を議論していく中で、やはり記述式は無理なのではという声が大きくなっていったように感じます。実際、第11回では五神委員から記述式の公正な採点は難しい課題であるというような趣旨の意見書面が提出されています。しかし、最終報告をまとめる期限が決められており、その時間的制約から、否定的な意見が採用されることなく報告がまとめられたように感じています。  この後の別の会議でも英語の民間試験の利用について反対する委員も存在しましたが、少しずつ会議の中では声も小さくなりました。なお、英語の民間試験の利用については、高大接続システム改革会議では、「民間の知見を活用する」ということでしたが、その後の検討・準備グループの議論で決まった実施方針では「外部試験を活用する」となりました。  現在に至るまでにも共通テストに対する様々な抵抗はあったということです。

問題だらけの文科省の役員選考と自覚なき委員たち

【民間業者のすり寄り】  高大接続システム改革会議が開催される2015年3月の時点で、参考までですが、安西座長は2014年11月に設立されたベネッセ傘下とされる(ベネッセ東京本部(西新宿)の建物の一部にある)「進学基準研究機構(CEES)」の評議員に就任されておりました。設立当初からの評議委員ですが、この以外にも、ベネッセは元文科省の事務次官などを理事長に添えるなど(それ以外でも)盤石な人事配置をしております。もちろん、このことは法に触れることなくベネッセが決めたことであれば、それを外部の人間がどうこういうことではありません。力のある民間会社は同じようなことをするでしょう。疑問なのは、これを引き受けた方の判断です。  これ以外にも、名前は出しませんが、ベネッセと関係が深い委員も複数いて、そのような方が、英語の民間試験の活用などを積極的に牽引しています。繰り返しになりますが、ベネッセがこのような「有力な人」にすり寄るのは、ある意味民間企業の本能のようなものですが、文科省側は役員の選考などにこのような点に注意をすべきであることと、各委員が自覚をもつことがすべてであると思います。「私はベネッセとは関係があるが、会議での発言はベネッセとは関係ない」と言ってもそうは見てくれませんし、そのような人が決めた共通テストは気分のよいものではありません。多くの人は、 狙われた大学入試 と見ることでしょう。
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過ちを繰り返さないために
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