今回乗船したフェリー「星希」(ソンヒ)
北九州への取材の帰り道、釜山に立ち寄ることにした。理由は単純で会社設立50周年の半額セールが延長されていたからだ。通常、二等は港の使用料や出国税などを合わせて片道1万2000円ほど。それが6700円になる。こんな運賃で一泊させてくれて外国へと運んでくれるのだから、驚きの安さである。
1965年に日韓基本条約で国交が回復。1969年に関釜フェリー株式会社が設立され翌1970年に大戦後は途絶えていた航路が復活した。以来、現在では日韓双方の運営会社によって、毎日船は両岸を行き来している。当初、9月末までだった半額セールは11月末までに延長。さらに、いよいよネットでの予約もはじまり一ヶ月前までの予約なら、いつでも半額で乗船できることになる。
前に関釜フェリーに乗ったのは釜山からの帰り道であった。釜山の国際客船ターミナルは日本へと向かう韓国人観光客でごった替えしていた。乗船の時にも列に並んでぞろぞろと歩かなければならない混雑ぶり。船内のラウンジでは持ち込んだ食べ物や酒で宴会を始める男性たち。カラオケルームで歌い踊っている女性たちが大勢いて夜遅くまで賑わっていた。
だが、日韓関係の悪化によってそうした風景は過去のものになったと聞いていた。
「とにかく団体観光客は少なくなりましたね」
九州の観光地で、日韓関係がこじれてからの様子を聞くとみんなそんなことをいう。じっさい、街を歩いている団体観光客はたいていが中国人。韓国人は個人旅行とおぼしき人を見かける程度である。そんな背景で行われている半額セールには、乗客の減少があるのではないかと思った。
下関の客船ターミナル
下関の客船ターミナルは、JRの駅から徒歩5分程。歩道橋で繋がっていてすんなりと歩くことができる。これまた歩道橋で繋がっている駅前のショッピングセンターに入っているスーパーで買い物をしてから、まっすぐと下関へ。その前に対岸の門司の街並みを見物していたのだが、レトロタウンとして観光地化に成功した門司に対して下関の街は閑散としている。ほとんど人とすれ違わないままフェリーターミナルに着いたのは乗船開始の二時間ほど前。チケットを購入し待合室を見渡すと椅子に座っているのは僅かに十人ほどである。その日は土曜日。休日ともなれば両岸を行き来する観光客も多いだろうと思ったが、まったくそんなことはなかった。
乗船待合室にいた担ぎ屋のおばさんたち
椅子に座っているのはみんな慣れた感じ。担ぎ屋のおばさんたちは、どこから持って来たのか固い椅子に段ボールをしいて横になっている。一人で、あるいは仲間同士で長椅子を占領して寝っ転がっていても誰も咎めないほど、待合室は閑散としている。売店もたまたま今日だけなのか、あるいはずっとなのか営業してはいなかった。
煙草を飲もうと、外に出ていた時にたまたま出くわした港の係員と言葉を交わした。
「いつも、こんなに乗客は少ないのですか?」
「
あの一件からねえ。人はいつもこんなもの。貨物はあるけれど……」
あの一件とは、一連の関係悪化にいたる両国政府の動きのことだろうか。8月頃から、新聞などでは両岸を行き来する人の数が減っていることが幾度も報じられている。今年8月の関釜フェリーの乗客数は前年同期比56.4%減の6454人。九州運輸局のデータでは7月の利用客数も同26.8%減の8889人で2か月連続で大幅に減少。韓国人の乗客に限定すると、7月は同30.5%減、8月は同66.1%減となっている。(『中国新聞』2019年9月13日付朝刊)
乗客が半分近くに減ってしまえば、旅客運賃に頼っていれば航路の維持はできない。日韓を結ぶLCCが次々と運休しているように、航路の存廃問題が浮上してもおかしくはない。ところが、観光業の悲鳴が報じられるが航路がなくなってしまうのではないかという懸念は、あまりない。地元紙などでも、そうした問題はあまり取り上げられていない。今後も激減が起こる懸念は避けられないものの貨物の取り扱いは変わらず続いており、航路の維持には十分なようだ。関釜フェリーが扱う貨物について触れたわずかな記事でも、日韓関係の悪化によって、大きな影響が出ていないとする。日韓関係の悪化で観光客の足が遠のく一方で、多くの企業が「商売は別もの」と考えているようにみえる。