以前は押し合いへし合い乗船したこともあったが……
フェリーの乗船開始は18時30分。これは国民性なのか韓国人は早くから列へと並ぶ。筆者もそれに混じって行列の中へ。かつては、担ぎ屋も混じって押し合いへし合いで乗船し、我先にと船内に自分のスペースを確保する時代もあった。でも、部屋割りが決められ担ぎ屋は行列も区分されるようになり、そうした雑然とした感じはない。列の中では、韓国語や日本語が飛び交っている。列の前でずっと法事の話をしていた九州弁の中年女性たちも手にしているパスポートは緑色。見渡しても、日本人は自分以外にいないように見えた。
ほとんど貸し切り状態だった二等船室
閑散とした感じは船の中でも同様だった。二等船室はいわば雑魚寝の部屋。その気安さであちこちから笑い声がしたものだが、廊下もずっと静かなまま。どうも部屋も余っているので乗船券を発券する際に、国籍や性別で部屋を割り振っているようだ。なので、広い部屋に自分一人かと思ったら、ようやくもう一人入ってきた。言葉を交わせば日本人。70歳を過ぎていまだ一人旅を楽しんでいるという老人だった。
船に乗ってしまえば、あとは夕食を食べて風呂に入って寝るだけ。ネットも通じなくなるし、やれることは少ない。そんな船旅の楽しみがレストラン。船上レストランだというのに、値段は極めて庶民的で1000円もあればお腹いっぱいに食べられる。日本側の運行する「はまゆう」か韓国側の「星希」かでメニューに違いはあるが、いずれにしても日韓の大衆食堂的なメニューが揃っている(今回乗船したのは星希だった)。
ここで、トンカツ定食などを頼んでは無粋。メニューにいくつもある韓国料理を楽しんでから、真っ暗な玄界灘を眺めつつチョー・ヨンピルの『釜山港へ帰れ』を聞くのが定番である。ところがレストランに足を踏み入れて驚いた。メニューが激減しているのである。去年はプルコギ定食などいくつもの韓国料理があったのに、今はキムチチゲ定食しかなくなっている。船内に掲示されたメニューにも大半に「売り切れ」の紙が貼り付けられていた。
「売り切れ」が貼られた船内レストランのメニュー
もちろんキムチチゲ定食も美味いのだが、少々残念な気持ちになりつつ食事を終えて、船内を散歩する。船内にはステージのあるクラブ風の設備もあり、こちらも以前は持ち込みで宴会をする乗客に開放されていたはずだが、扉は閉じられている。免税店も利用者はなく店員は暇そうだ。
クラブ風の船内施設も閉鎖中