バルセロナ抗議デモに参加した抗議者たちの様子
Photo by Paco Freire/SOPA Images/LightRocket via Getty Images
10月14日、
スペイン最高裁にて2年前のカタルーニャ独立を問う住民投票の実施を主導した当時のカタルーニャ州政府閣僚並びに政治組織会長らに対し実刑判決が下された。それが発端となってカタルーニャで抗議デモが激化した。
人口760万人のカタルーニャ自治州で独立への気運が具体的に高まりを見せ始めたのは2014年のこと。当時のマス州知事(*筆者注:日本では州首相と報じられているようだが、カタルーニャは自治州であり国家ではないため、州知事と訳すのが適当だと考えるため、州知事と表記する)はそれを「プロセス」と呼んだ。
カタルーニャの独立ということについて少しコメントする必要がある。それを以下に箇条書きにて説明しよう。
◎スペインはフランコ独裁政治を終えて1976年から民主化への移行の際に17の自治州とセウタとメリーリャの二つの自治都市を誕生させた。自治州は外務省以外は全て中央政府と同じ行政体制にしている。カタルーニャ州もそのひとつである。
◎カタルーニャが独立を望んでいると言われているが、民主化以降にカタルーニャで実施された総選挙と州議会選挙で独立反対派が独立支持派を得票数において僅差であるが常に上回っている。
最近の州議会選挙でも得票数において独立反対政党に入れた票数51%に対し独立支持政党に入れた票数は48%であった。ところが、選挙区制の問題から独立支持派が多くいるリェイダ県とジロナ県では当選するのに2万票で十分なのが、独立反対派が多くいるバルセロナ県では当選するのに4万票が必要となっている。その結果、独立支持派の70議席に対し独立反対派は65議席という結果になって、独立支持派の政党が連携して政権に就くということになった。これが民主化以降に常に繰り替えされて来た。
ということから、すべてのカタラン人が独立を望んでいるのではないというのが現実なのである。寧ろ、有権者の中では独立を望んでいない住民の方が多くいるということなのである。独立を望んでいない住民はカタラン人であり、またスペイン人でもあるという意識をもっている。
今月21日にカルマ・フォルカディルの発言がカタラン紙『
El Periódico』に掲載された。彼女は住民投票を導いた時の州議会議長で今回の判決で禁固刑11年6か月が言い渡された。その彼女が「プロセス」を歩む際にカタルーニャ住民の半数は独立を望んでいない人たちであるということへの配慮がなかったと反省していることが報じられた。
◎カタルーニャが仮に独立すれば、EUには加盟できずカタルーニャの企業が発展して行く道が閉ざされることになる。というのはEUに加盟するには加盟国のすべてがカタルーニャの加盟に賛成する必要がある。それに対してスペインがカタルーニャの加盟に反対するのは確実だ。
また、現在のカタルーニャの企業の取引先は40%がカタルーニャ以外のスペインの自治州、40%がEU諸国、残り20%がそれ以外の外国となっている。特に、カタルーニャ州の隣のアラゴン州との取引はフランスとの取引以上のボリュームである。仮に、カタルーニャが独立するようになれば、スペインの他の自治州がカタルーニャ商品をボイコットするのは確実である。しかも、EUに加盟できないことから、カタルーニャからヨーロッパに輸出するには関税が適用されてカタルーニャ商品の競争力が落ちることになる。
仮にカタルーニャが独立した場合には以上のような問題を抱えることを承知で独立することになる。それが意味するものはカタルーニャ経済の破綻である。実際、現状のカタルーニャは巨額の負債を抱えており、スペインの自治州の中でももっとも税金が高くなっている。
独立支持派の住民も、現実にこれらの問題を肌で感じるようになると果たして独立する意味があるのか疑問に感じるであろう。その前例は既にカナダのケベック州に見ることができる。独立への動きが起きてから30年近くが経過した現在のケベック州の経済は大きく後退している。
一方、スペイン主流派メディアの認識は以下の2点に集約される。
◎現在のカタルーニャはフランコ独裁時代と違って、政治的また社会的に中央政府から以前ほど弾圧を受けていない。教育面でも公用語の教育を無視できるほどにカタラン語の普及に努めている。
◎今回の最高裁の判決についても、スペイン憲法155条にスペイン国家の統一を損なう自治州の政治的活動の禁止が謳われている。カタルーニャ州でもこの憲法を批准している。それを無視して独立の為の住民投票を実施したということが公判の対象になったのである。しかし、彼ら指導者に禁固刑9年から13年という判決は過度の刑罰であることは否めない。