八ッ場ダム、スーパー堤防……。幼稚な翼賛デマは防災・治水を軽視する愚論

防災とは100年の計であり総合的な技術体系である

 防災において、例えば堤防は10年単位、ダムは25年一区切りで整備が行われるものです。  今回の災害は、とくに都心を見ると、堤防に加えて分水、多数の地上・地下遊水地、排水ポンプ、樋門、防水壁といった様々な治水設備が補い合って大水害を防いでいます。勿論利根川水系上流のダム群もただし書き操作に入ること無く治水を分掌しています。  別にダム無双やら夢のスーパー堤防やらが決定打となっているわけではありません。地道な積み上げが首都の驚くべき治水機能を担っているのです。これは300年近い関東における治水事業の成果であって、なにやらムーンショットを狙ったキワモノによるものではありません。ビジュアルの弱い地味な事業の集大成なのです。  そして水は弱いところを狙います。今回多摩川水系が大きな洪水負荷を受けましたが、結果、二子多摩川の世田谷区側が越水しました。しかしここはなぜか多摩川下流域唯一の無堤箇所でした。無堤箇所や暫定堤防があれば水はそこを突破します。多摩川で無堤など言語道断の「自殺行為」であって、死にたく無ければ、財産を失いたくなければ、速やかに堤防を完成すべきです。一方でこれに便乗して世紀の愚策であるスーパー堤防を建設するなどといった悪質な便乗行為も許されません。  いまだに継続中である台風19号による関東甲信越奥州広域水害は、歴史的なものになる可能性があります。気候変動によって日本は、平安時代末期のように本土の一部が亜熱帯化しつつある可能性があり、今後大きな災害が頻発する恐れがあります。  一方で防災に割り振れる資源には限りがあります。橋本政権による公共投資予算大幅減から下げ続けた防災予算は、菅政権時代に漸く底入れし、安倍自公政権においても菅政権と概ね同水準で推移しています。
防災関係予算額の推移

防災関係予算額の推移
平成30年版 防災白書
阪神大震災によりピークとなった1995年を最後に防災予算は、橋本、小渕、森、小泉、安倍、福田、麻生政権で減少し続け、鳩山政権でもその傾向は踏襲されたが、東日本大震災により菅政権で大幅に増額し、野田、安倍政権でも同水準を維持している

 一方で安倍政権では国土強靱化と称して大型事業へ偏重した投資がなされており、今後に禍根を残します ダムスキー・デマゴギーやスーパー堤防デマゴギーは、防災投資を歪め人を殺す殺人言論です。このような愚劣なことはいい加減止めにしていただきたいものです。 ◆『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』~超緊急特集・2019年台風一九号(Hagibis)による水害について-2 <文/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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