「ジェントリフィーション」で個性的な街はどこへいく
桜丘の「文化発信基地」が消えゆく一方で、渋谷駅周辺において殆どの大型再開発の事業主体となっている東急グループは、開発テーマの1つに「エンターテイメントシティ」を掲げており、渋谷を「何処にでもある街」にしないための様々な努力をおこなっている。
たとえば、今年11月に1期開業する予定の渋谷駅ビル
「渋谷スクランブルスクエア」に設けられる予定の屋上庭園や、去年開業した
「渋谷ストリーム」に旧線路敷きを再現し、また渋谷川を再生させたこともその一環であり、その手腕は渋谷を熟知した東急ならではのものだと感心させられる。
しかし、すでに再開発が行われたエリアの周辺では家賃水準が上昇するなど
「ジェントリフィケーション問題」(Gentrification/再開発などに起因する地域の高級化)も囁かれている。
渋谷ストリームに再生された渋谷川。
他地域とは異なった「街の個性」を活かした再開発も行われているが……
桜丘のみならず渋谷駅周辺は「再開発ラッシュ」であり、それゆえ再開発で立退きとなった個性的な店舗の多くは再開発エリアから、つまり渋谷駅からさらに離れた場所へと移転・分散。駅チカ・再開発エリアの周辺では「家賃の高騰」により個性的な店舗の出店が難しくなっており、特に
新たに出店する飲食店はチェーン系居酒屋など都内ならばどこででも見かけるような店舗や、例え個人商店であっても一般的なカフェやイタリアンなど「誰にでも好まれるような店舗」が目立つ。
こうした状況は長年に亘って育ってきた「文化発信拠点」としての役割にも大きな影響を与えている。
新たにライブホール「渋谷ストリームホール」ができたが……
渋谷駅周辺の再開発エリアと地価推移。(筆者作成)
とくに渋谷駅近くでは地価の高騰が著しい。
東急グループが旧東横線線路跡地に建設した「渋谷ストリーム」には新たなライブホール
「渋谷ストリームホール」が開設された。
渋谷ストリームホールは桜丘地区の隣接エリアに建設されており、新たな「渋谷の文化発信基地」としての役割を担うが、その貸切使用料金は週末の音楽ライブであれば1日あたり
最低でも税込64万8000円からとかなり高額。
収容人数も700人とかなり大きく、これまであったライブハウスのように
インディーズバンドやライブアイドルが単独で気軽に使えるものではない(桜丘で最も規模が大きかったライブハウス「渋谷DESEO」は貸切使用料金税込み10万8000円から最高27万円、収容人数250人)。
渋谷ストリームホール前には旧・東横線渋谷駅の「カマボコ屋根」と「線路」が再現されている。
渋谷、そして桜丘のライブハウスに思い入れのあるバンドやアイドルグループは数多くあれど、渋谷ストリームホールのこけら落とし公演をおこなったのは、紅白歌合戦にも出場したメジャーアイドルの
「欅坂46」だった。これは、まさに渋谷文化にも「ジェントリフィケーション」の影響が及んでいるという状況が、ハッキリと目に見えるかたちとなった瞬間であった。
「DESEOmini」の背後にそびえ立つ「渋谷ストリーム」。
前出の音楽プロデューサー・H氏は「これまでの桜丘は大きなライブハウスでは到底できないようなグループが切磋琢磨してきた場所であり、渋谷ストリームホールは代替にはならない」とした上で、「700人規模のホールを埋められるグループなんて、恐らく全体の1パーセントくらい。1パーセントになる為の研鑽の場、淘汰の場である(中小規模の)ライブハウスが必要だ。」と指摘する。
閉館したライブハウスには多くのアーティストからのメッセージが残されていた。