「日本のドラマで日本語を覚えた」辛い別れを乗り越えて2店舗持つに至った蘇州大餛飩店オーナー<越境厨師の肖像>

「母」からの提案で自身の「ソウルフード」に注目

李さん

一つ一つ手で包まれる。家庭料理として食べられており、蘇州の子供はお手伝いで包むことが多い

「日本の母」から提案された市民フェスティバル屋台のこと。勉強した洋菓子を出そうかと思っていた李さんに、「母」から意外な言葉が飛び出てきた。 「せっかくいろいろな国のみんなが出す屋台だから、それぞれ故郷の料理を出してくれたら来場客も楽しめるし交流のきっかけにもなるのでは? って言われたんです。ああ、なるほど、それは面白そうだと思い、私がまっさきに思い浮かべたのは故郷・蘇州の大餛飩(ワンタン)でした」  蘇州大餛飩--。  蘇州を代表する名菜や小吃としてなかなか表には挙げられないのだが、家庭では祝い事や正月をはじめ、家族団欒の中心にある欠かせないソウルフードである。皆で作り皆で食べる。李さんも家でよく作っていた得意料理。たっぷり作った時は近所に配ることもよくあるそうなのだが、そんなやり取りの中でも、李さんの家のワンタンは周囲でも評判だったそう。  結果、フェスティバルではそれを紹介しよう、ということになった。  そして迎えたフェスティバル当日、ワンタンは大好評! そこで李さんは新たな手応えを感じたという。 「ワンタンの提供を通して故郷蘇州を紹介しながら、ケーキも楽しめる気軽な雰囲気のカフェ。そんなお店を持ちたいと思うようになったんです」  この構想を一歩ずつ着々と進め、2014年6月、小手指駅そばに『ダイニングカフェ 蘇(スー)』を開業した。

厳しいスタート。フェスティバル時の手応えはどこへ……

小手指の1号店『ダイニングカフェ 蘇(スー)』

小手指の1号店『ダイニングカフェ 蘇(スー)』

 いざ始めてみると、蘇州のワンタンがなかなか受け入れられない。  というのも、ワンタンと聞き、心得ているつもりで注文したら、認識と全く異なる姿のワンタンが目の前にやってくるために、日本人のお客さんは戸惑ってしまうようだった。  それもそのはず。日本の、ひらりと幅広めな皮の小ぶりなワンタンに比べ、蘇州をはじめとする中国江南地方のワンタンは、餡ぎっしりの大きなもので、元宝(昔のお金;銀錠・馬蹄銀などの呼称もあり)型のボリュームたっぷり大ぶりなワンタンなのだ。  この解説を加えたポスターを作成し店頭に貼ってみても、見て立ち去ってしまう人ばかり。チャレンジしてみようと勇気を持って入ってきてくれた客からも、食後好反応を得られない。「中国の料理屋さんだから麻婆豆腐とか炒飯があるかと思った」という人もあり……。 「当時提供していたワンタンは『肉野菜』と『コーン』の2種類だけだったんです。あと、見た目も地味でした。そこで、数少ないけどお越しいただいたお客様の声を聴きながら、抜本的な商品の見直しにとりかかったんです」  試作と検証を繰り返した末に生まれたアイデア。それは目にも楽しい5色のワンタンだった。
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悲しい別離と再出発
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今回紹介した李さんのお店はこちらの2店

◎小手指「カフェダイニング 蘇(スー)
埼玉県所沢市小手指町1-15-11 アゼリア5 1階
04-2008-1188
営業時間 11:00-22:00

◎大久保「蘇園餛飩
東京都新宿区北新宿1-7-20 プロスペリタ新宿102
03-5330-1808
営業時間 11:00-22:00
(今後変更の可能性あり)