JMTRは、去る7月4日に筆者自身が写真を撮影していました(参照:
全国原子力・核施設一挙訪問の旅! 大洗、東海村を経ていわき市へ……P2|HBOL)。これと
JAEA発表資料 と比較してみましょう。
JAEAの発表写真は、ポンプ室と二次系の間、原子炉建屋との間の機械室を背にして、7/4の私の撮影位置と正反対から撮影していると思われます。
JMTR建屋の位置関係 2019/07/04牧田撮影
JMTR二次系冷却塔 倒壊前
上部に冷却水、充填剤、散水機構、電動機、減速機、ファン、排気ダクトが集まっており、著しいトップヘヴィ(上が重い状態)である。
JAEA公開写真を著者が加工
JMTR二次系冷却塔 倒壊後
木柱と木枠にスレートを打ち付けた構造である。
柱はたいへんに細い。
スリット部は建物の強度に関与していない。
JAEA公開写真を著者が加工
JAEA公開写真を見ますと、底部にある冷気取り入れスリット部を残してスレート葺きの冷却塔が全壊しています。冷却塔は、西側に向けて倒壊していますので、台風による東の風で吹き飛ばされたことが分かります。
そして倒壊した瓦礫をよく見ると、確かに
柱が木製です。そのうえかなり細い、相当な安普請に見えます。おそらく建築物では無く、
設置物の扱いとして耐震基準が適用されていないと思われます。
なお写真はありませんが、冷却塔の隣、写真の排気筒下にある送風機室も、建屋の外壁に冷却塔の残骸によって穴が空いています。
材料試験炉(JMTR: Japan Materials Testing Reactor)は、原子炉材料、構造体、核燃料への中性子照射による影響を試験するための炉です。ほかに産業、医療用の放射性同位体(RI)の製造や半導体材料(Si)へのドーピングなどが挙げられていますが、基本は原子炉材料物性、炉心物性のための研究・試験炉です。
この原子炉は、中性子照射損傷の加速試験(試験対象材料を意図的に過酷な環境におき、劣化、損傷を通常より早める試験)のために原子炉内の中性子密度を高める設計をしています。また、炉内で照射した試験片を原子炉から直ちに取り出し、ホットラボ(ホット=放射性物質)にカナル=水路を通して移送する設備を持っています。
中性子照射直後の試験片は、きわめて強い放射能を持ちますが、このカナルの水によって放射線を遮蔽してホットラボに移送し、ホットラボ内の遮蔽された試験設備によって照射直後の試験片を分析できます。
このようにして、
原子炉構造体、炉心構造物、核燃料の中性子照射による損傷、劣化を加速試験し、その構造、強度、物性変化を知ることが出来ます。事実、原子力発電黎明期に多発した様々な不具合につき原因を知ることが出来、JMTRは、
80年代以降の原子力黄金期を迎えた原動力となっています。
原子炉内の構造体、核燃料の中性子照射による挙動は近年ではある程度シミュレーションにより行えますが、そのシミュレーションを行うための変数や定数は、JMTRなどによる実測によって得ています。
とくに今後高経年炉、高燃焼度核燃料、長サイクル運転などがJMTRなどの材料試験炉を必要としています。しかし、日本にはもはやJMTRもその後継炉もありません。海外炉で細々と照射試験を行うほかありません。これは由々しきことです。
JMTRすら維持できない国に、政府や自民党、財界の主張する原子力産業立国など不可能です。