区土木部は「何十年、何百年かかるかは算定できません」
住民が起こした控訴審の判決は敗訴。「不当判決」の旗を出すのは、原告の高橋新一さん(左)と宮坂健司さん
7月16日、国が進める高規格堤防(スーパー堤防)の整備事業に対して、東京都江戸川区の住民4人が国と区に計400万円の損害賠償を求めた『江戸川区スーパー堤防差止訴訟』で、東京高等裁判所は一審の地裁判決に続いて請求を棄却した。
スーパー堤防とは、堤防の幅が150メートルから300メートルもある超巨大堤防のこと。
「洪水時に越水しても破堤しない」とのウリで、国土交通省が推進している。
事業は1987年に始まったが、幅数百メートルもの堤防建築は、周辺の全住民を立ち退かせなければならないだけに、実際に着手する自治体はほとんどなかった。これに唯一手を出したのが江戸川区だ。
その計画は、
完成までに200年と2兆7000億円を要し、区内3河川周辺から9万人を立ち退かせるというものだ。
まともな感覚で行われる事業ではない。そこで区土木部に確認の電話を入れてみると、
「何十年、何百年かかるかは算定できません。一つ一つの区画整理事業を粛々とやるだけです」との回答があった。本当に区民の防災のために、200年もかけるのだろうか?
「造成後は戻ってきてもいい」というが、戻るのは半数だけ
スーパー堤防の概略図。幅が広いため完成後はその上に住居を建ててもいいが、堤防の上なので増改築には制限がかけられる(江戸川区「スーパー堤防整備方針」より)
スーパー堤防はなだらかな傾斜地となるため、造成の3年後にはいったんは立ち退いた住民は戻ってきてもいいという触れ込みになっている。しかし、3年で2度の引っ越しを強いられるのは、住民にとっては大きな負担だ。
区が最初に手掛けた平井7丁目では、82億円をかけて73戸が立ち退いた。スーパー堤防完成後に戻ったのはその半分だけ。「堤防の上に住む」ということは、河川法の縛りを受け、地下室の増設や家の改築が自由にできないことも敬遠材料となったのだ。